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【シドニー駐在員 野村 俊夫 3月9日発】豪州政府は、イギリス政府が2月21 日に国内の肉豚に口蹄疫が発生したと発表したことを受けて、同国からの食肉・酪 農製品の輸入を全面的に停止すると発表した。既に今年1月、牛海綿状脳症(BS E)関連でEU産食肉製品の輸入制限が強化されたところであるが、今回の口蹄疫 発生により禁輸措置がイギリス産の酪農製品などにも拡大されたことになる。 豪州政府は、食肉・酪農製品の禁輸措置に併せて、イギリスから豪州への一般入 国者にも神経をとがらせている。豪州はかつてイギリスの植民地であったことから 同国に親類縁者を持つ者が多く、毎年多くの者が行き来している。このため、豪州 検疫検査局(AQIS)は、イギリス人の豪州への入国に際しては、豪州関税局 (ACS)と協力して手荷物の特別検査を実施するなど厳戒態勢をしいている。 豪州では1872年以来口蹄疫が発生しておらず、約130年間、清浄国のステータス を保持している。今回も絶対にその侵入を食い止め、輸出主体の食肉産業に及ぼす 甚大な被害を回避する構えだ。豪州家畜衛生局(AAHC)は、直ちに複数の専門 獣医官をイギリスに派遣して協力の任に当たらせた。 一方、業界の中には、今回のEU牛肉業界の混乱は、豪州産牛肉のEU向け輸出 を拡大するチャンスととらえる見方もある。現在、豪州からEU向けの牛肉輸出は、 年間7千トンの関税割当によって制限されているが、これに乗じて数量拡大を要求 すべしという意見だ。これに対して農林漁業省は、数量拡大は容易ではないとの見 解を示した。また、食肉業界内からもホルモンフリーの特別認証を求められるEU 向け牛肉の供給量を直ちに大幅に増加させることは考えにくいとのコメントが出さ れた。 EUは、99/2000年には96万トン(枝肉ベース)の牛肉をロシア、東欧諸国、中 東諸国、アフリカなどに輸出し、2000/01年の輸出量も74万に達するとみられてい る。豪州の牛肉関係者は、これらの市場に熱いまなざしを注いでいるが、豪州食肉 家畜生産者事業団(MLA)のバーナード海外調査部長は、これらの新規市場への 輸出の伸びは大幅なものとはなり得ず、豪州にとって主要な市場は引き続きアジア 諸国と米国になると業界関係者をけん制するコメントを発表した。 一方、口蹄疫の動向に神経をとがらせているのは畜産業界だけではない。フラン ス、ベルギー等への口蹄疫拡大が懸念されている状況から、穀物、特に小麦の相場 が上昇する気配を見せている。 口蹄疫は、発生・拡大すると家畜食肉産業のみならず、他の農業分野にも多大な 影響を及ぼすだけに、今回のイギリスでの発生をどこで食い止めることが出来るか、 世界中の農業関係者の関心が注がれていると言えよう。
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