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【シドニー駐在員 幸田 太 5月17日発】豪州では電子耳標を用いた全国家畜 個体識別制度(NLIS)が肉用牛生産者の任意参加で開始されているが、豪州肉 牛生産者協議会(CCA)は、政府の援助を条件にこれを直ちに義務化することを 求めている。これに対し、連邦政府のトラス農相は、先日行われた豪州連邦・各州 農相会議において、その重要性を認識しながらも、生産者による自発的な導入を優 先すべきであり、直ちに義務化することについては難色を示した。 豪州では、99年12月からNLISが開始されている。NLISは、農林漁業省、 豪州検疫検査局、CCA、豪州肉牛フィードロット協会など、政府・業界の団体で 構成するセーフミートが管理運営の責任を負っているが、実際には豪州家畜生産者 事業団(MLA)がセーフミートからの委託によりその事務等を行っている。その 目的は、疾病予防管理(ブルセラ病、牛の結核等)、残留農薬など事故発生時の追 跡可能性などとされている。 豪州は、その牛肉生産量の6割を輸出する牛肉輸出国であり世界の各地で発生し ている口蹄疫や牛海綿状脳症(BSE)に対する豪州産牛肉の安全性、信頼性のア ピールや国内防疫面から個体識別制度の重要性が議論されている。 先ごろMLAが試算したところによると口蹄疫が豪州で発生した場合の損失額は 40億ドル(約2,600億円:1豪ドル=65円)に達するとされ、牛肉産業界の危機意 識も高い。NLISが開始された背景には、EUが、98年にEU向け輸出牛肉への 成長促進ホルモン剤の使用に関する検査体制の見直しと肉牛生産農場まで確実にト レースできる個体識別制度の確立を要求したことが挙げられる。その後、EU向け 輸出牛肉に限りNLISが義務化された(「畜産の情報」海外編2000年6月号参照)。 MLAによると昨年12月現在、EU向けNLIS生産者数は2,871戸、118万6千 頭が耳標装着されたとされている。 現在NLISに使用される電子耳標は、最低価格のもので1個約3.5豪ドル(約 230円)であり、その費用は生産者が負担している。NLISの義務化をめぐる今 後の議論の焦点は、その費用を誰が負担するかであり、CCAは、連邦・各州政府 の援助を求めているが、トラス農相は、当面は業界内で導入を促したうえで将来的 に義務化することが望ましいと消極的な発言を行った。 豪州の2000年の飼養頭数が約2,700万頭、そのすべてに電子耳標を装着すると単 純に8,100万豪ドル(約53億円)、さらに現在MLAが行っている個体のデータベ ースシステムへのすべての家畜市場、食肉処理場でのデータの読み取り、入力装置 の導入などインフラ整備も必要となり、そのコストはかなり大きいものになると予 想され、個体識別の重要性は認識している政府も義務化に対し消極的になっている ものと思われる。 豪州の牛肉輸出量は毎年増加し続けており、昨年ついに90万トンを超えた。今年 に入ってもその勢いは、豪ドル安、相次ぐ競争相手国の疾病の発生などの追い風に 乗り依然衰えていない。肉牛業界の輸出部門は、96年にイギリスを中心に発生した BSEなどの影響により、輸出量が減少した苦い経験があり、食品の安全性に関す る輸入国の消費者ニーズに対応するべくNLISの導入に努力を続けている。今年、 MLAはNLIS制度開始以来2年間の蓄積データを生産者へフィードバックする 予定である。NLISの義務化が実現するか、今後の動向に注目したい。
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