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【シンガポール駐在員 小林 誠 5月17日発】ベトナムでは、4月下旬に開催 された第9回全国党大会において、今後10年間の社会・経済開発計画を含む新たな 政策方針が採択された。この新方針を受けて、農業・農村開発省(MARD)では、 酪農振興を最重点課題として小規模農家の所得向上を目指す、新たな畜産振興策を 発表した。 新たな政策方針の背景には、最近の少数民族問題と同国の外貨不足問題があり、 乳製品については、自給率が低く、ベトナムも所得向上に伴って消費量が伸びると いう一般原則に従うとすれば、現状の生産体制のままでは、輸入によって貴重な外 貨を失う可能性が高い。また、素牛の価格が高く、初期投資額が大きいという酪農 の難点はあるものの、いったん生産が始まれば、小規模でも継続的に現金収入が得 られるという利点があることが、今回、酪農振興を最重点課題とした背景にあるも のとみられる。 総合統計局によれば、農村地帯の1戸当たりの月収は、94年に14万1千ドン(約 1,175円:100ドン=約0.83円)であったものが、99年には約6割増の22万5千ドン (約1,875円)に増加している。しかし、この間、都市生活者の平均世帯収入は、 94年の月当たり35万9,700ドン(約2,998円)から、99年には、2.5倍の83万2,500ド ン(約6,938円)へと増加しており、農村と都市との所得格差は、むしろ大幅に拡 大しており、農村部での不満が高まる一因となっている。 ベトナムには、2000年末現在、約3万5千頭の乳用牛(うち約2万4千頭が経産 牛)がおり、年間約5万5千トンの生乳が生産されている。MARDでは、2005年 には乳用牛頭数が約10万頭(うち経産牛頭数が約6万8千頭)で生乳生産量が約16 万3千トン、2010年には乳用牛頭数を約20万頭(うち経産牛約13万6千頭)、生乳 生産量を約35万トンにまで増産したいとしている。 2000年における同国の1人当たりの乳製品消費量は、生乳換算で約6.5sである が、自給率は10.8%にすぎない。MARDでは、乳製品消費量を2005年には約9s、 2010年には約12sに引き上げるとともに、自給率も2005年には21%、2010年には32 %まで引き上げたいとしている。 MARDでは、今回の酪農振興策のための予算として、今後10年間で約5,150億 ドン(約42億8千万円)という、同国としては大型の基本計画予算を組んでいるほ か、農家向けの低利融資枠として総額1兆2,050億ドン(約100億円)を確保してい る。政府の基本予算の内訳は明らかにされていないが、少数民族を多く抱える北部 山岳地帯への乳用牛の投入や、首都ハノイや南部の中心都市ホーチミンなど大都市 近郊での酪農振興が中心になるものとみられる。しかし、同国では、南北で一般経 済事情のみならず、畜産農家の経営形態も大きく異なっている。南のホーチミン市 周辺では、酪農家の規模が大きく、流通経路も含めて発展が著しいのに対し、中部 以北では、経営規模も公社を除くと平均10頭程度以下であり、流通経路にも問題が あるように思える。 今回の発表には、飼養頭数の拡大が中心で周辺状況の整備が含まれておらず、か なり無理があるとみられる面もある。しかし、2000年末からは日本の技術協力によ る人工授精技術改善計画も開始されており、同計画を通じた乳量の改善が同国酪農 の発展に与える影響と併せ、今後の動向が注目される。
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