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【シンガポール駐在員 小林 誠 11月 1日発】フィリピンのモンテメーヤー農務 長官は、先月末にミンダナオ島のダバオ市で開催された第7回酪農会議で、「白の 革命」と称される一連の酪農・乳業振興策の概要を説明した。現在、同国の牛乳・ 乳製品自給率は1%に満たないが、この振興策では、乳用牛頭数の急速な増加と国 内乳業者の処理効率改善によって、自給率の向上を図ることを目的としている。 「白の革命(White Revolution)」は、60年代から70年代にかけてインドで行わ れた酪農振興策で、これにより同国における水牛や山羊を含めた生乳生産量が飛躍 的に向上し、同国では牛乳・乳製品の自給のみならず、輸出余力を有するまでに至 ったもので、今回のフィリピンにおける振興策もインドの例を模範としたものとみ られる。同長官によれば、フィリピン版「白の革命」では、生乳の国内生産量を年 率10〜15%増加させることを目標としている。 フィリピンは、東南アジアでは数少ない、牛乳・乳製品の摂取習慣が定着してい る国だが、牛乳・乳製品の需要量約160万トン(生乳換算)に対し自給率は1%未 満ときわめて低い状況にある。この背景には、同国の気候が酪農生産にとって厳し い条件にあるほか、関税が3〜8%と低い水準にあり、粉乳類やアイスクリームを 主体とした同国の消費形態の場合、必ずしも国産生乳が必要不可欠とされなかった という事情がある。 同国では、酪農家の資金力不足で増頭が進まないことから、酪農・乳業振興策に は、国立酪農公社(NDA)と地方信用保証公社が7千万ペソ(約1億6,380万円: 1ペソ=2.34円)の直接貸出資金枠を設定するほか、1億7,500万ペソ(約4億950 万円)分の信用保証枠を設定し、酪農家を資金面で支援することとしている。ND Aは、家畜の購入や繁殖用器具機材の支払い保証のための資金確保の目的で、フィ リピン土地銀行と共同で国内外から1億5千万ペソ(約3億5,100万円)分の回転 信用(期間内で一定の借入・返済を繰り返し、残高について利子を支払う方式)を 調達している。 また、国産生乳需要が伸び悩む背景に、飲用乳需要が低いことがあることから、 農務省は、米国に対し同国の援助物資を食料教育の目的に利用できるようにするこ とを求めているほか、援助物資相当額を現金で供与し、これを国産生乳の買い付け に回すことも求めている。さらに現在、国会では学乳の制度化などに関する法案が 審議されており、同省は、学乳制度を大統領の社会政策として永続化することを求 めている。これにより、学乳を中心とした飲用牛乳の消費拡大を図ろうとしている。 この法案では、総額3億ペソ(約7億200万円)の約7割を学乳の実施にあて、残 りの3割は酪農・乳業関連対策にあてることとしている。同省は、内務省と各県に 対し、地方税収の一部を学乳予算に振り向けさせることを求めていくことになると も表明している。これと平行して、NDAは、酪農開発法の一部を改正し、乳業者 に国産生乳の買い付けを義務付けることも狙っている。 農務長官は、2000年の生乳生産量である1,020万リットル(約1万500トン)に対 し、今年の増加目標は100万リットル(約1,030トン)増の1,120万リットル(約1万 1,500トン)であり、初年度の目標達成は十分達成可能であるとしている。
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