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【シンガポール駐在員 宮本 敏行 11月8日発】マレーシアのマハティール首相 は、このほど開催された農畜産業への投資に係るセミナーにおいて、同国における 食料輸入の支出削減および農地に適した土地の不足傾向を打開する目的で、アブラ ヤシなどを栽培するプランテーションを営む大規模農場に対し家畜を導入した複合 的な農場経営を行うよう要請した。 マレーシア農業省によると、同国における今年の食料輸入に係る支出は、前年比 5.6%増の120億リンギ(約3,840億円:1リンギ=32円)に達すると試算されている。 同支出額は、人口の増加および食生活の変化に伴って急増しており、85年の35億リ ンギ(約1,120億円)から、この15年間で約3.4倍に膨れ上がっている。こうした増 加傾向は、割高な輸入品の増大に反対する消費者の非難の的となっており、98年に 当該支出が100億リンギ(約3,200億円)を超過した際に、政府は、国内農産物の生 産を刺激するための対策として、10億リンギ(約320億円)の農業支援措置を講じ ている。しかし、農産物の増産を図るために、この支援策の下で農地を増やそうに も適当な土地が残されていないことが大きな問題となっている。 同国は、ルック・イースト政策をはじめとした工業立国への傾斜にいち早く移行 し、アセアンの中でも目覚しい経済発展を遂げてきた。しかし、そうした産業構造 の変化の中で農畜産業の位置付けは相対的に低下してきており、農民の保護の目的 だけではなく、食料安全保障の面からも農業を再び重視する政策への転換が図られ ようとしている。当セミナーでは、同国の食料生産セクターは限りない潜在能力を 有しており、革新的な技術を用いることによって国内の需要を満たすだけではなく、 将来的には余剰食料の輸出さえ可能であるとする研究結果も発表された。 首相とともにセミナーに出席したエフェンディ農業大臣は、効率的な農業生産を 行う観点から、アブラヤシをはじめとしたプランテーションを営む大農場が、広大 な敷地を有効利用して畜産業へ参入することの役割は大きいと強調している。同大 臣は、国内には農畜産業を営むための良質な農地が不足しており、既存のプランテ ーションが、新たな農地スペースとして有効利用できる唯一の存在であること、ま た、現在、同国では約400万ヘクタールあるアブラヤシ農場の敷地内で約100万頭の 牛が飼養できるにもかかわらず、わずか10万頭が飼養されているに過ぎないことを 明らかにし、農場の複合経営への積極的な参加を呼び掛けた。 また、同大臣は、この事業が軌道に乗れば、現在23%である食肉の自給率を2020 年には28%に押し上げることが可能であることや、収益性は高い反面、時として生 産の安定性を欠くアブラヤシ農場経営をバックアップし得ることを挙げ、当事業に 対する政府の期待の大きさも伺わせている。 当セミナーでは、首相による畜産業への投資の検討依頼に対して、各農場のオー ナーは一様に同意を表したとされている。政府も技術的な援助をはじめとしていか なる協力も惜しまないとしており、これらの大規模農場による畜産業への参入が進 めば、同国における農畜産業を再び重視する政策の推進力も徐々に強まっていくも のと思われる。
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