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【ワシントン駐在員 樋口 英俊 11月8日発】米農務省(USDA)は先ごろ、 農業直接補助金の農地価格への影響に関する調査報告を発表した。同省農業統計局 (NASS)の資料によれば、農地価格は、80年代の終わり頃から毎年上昇を続け ており、2000年の1エーカー(約0.4ヘクタール)当たりの平均農地価格(耕作地で アラスカ州、ハワイ州及びDCを除く)は、前年比5.7%高の1,490ドル(約18万円: 1ドル=120円)となっている。 同報告書は、こうした値上がりの主な要因として、都市化と政府の農業直接補助 金を挙げており、後者について、そもそも生産者の所得を増やす目的で導入された ものが、農地価格の上昇という「副作用」を生じたとしている。 政府の農業直接補助金は、2000年には229億ドル(約2兆7,480億円)が支払われ、 純農業現金所得に占める割合は、20年前には4%以下であったものが、約4割にま で達したとされる。このうち、92%がいわゆる商品計画に関連するもので、主なも のとしては、@農地とリンクした農家直接固定支払、Aこの上乗せという形で支払 われる緊急農家支援補助金等、B市場損失補助(MLA)及びCマーケティング・ ローン(ローン不足払いを含む)などがある。なお、2000年において、これら4つ の補助金の支払を受けたのは、全農家のうち、およそ3分の1に相当する約73万の 経営体である。 こうした補助金の支払の多くは、その対象作物の生産が盛んなコーンベルト、南 平原、五大湖地帯、北平原およびデルタ地帯に集中しており、商品計画に関連する 政府の直接補助金の約85%を占めるものと見られる。USDAによれば、これらの 地域の農地価格において、商品計画に基づく支払が寄与したと推計される額の割合 は、コーンベルトで24%、南平原で23%、五大湖地帯で22%などと、比較的高いも のとなっている。 農地価格の値上がりは、農地を保有する農家にとっては、財政面での安定をもた らし、担保価値の増加による融資を容易にするなど、プラスの面を有している。そ の一方で、農地を借りている経営体(全経営体の42%に相当し、これら借地は農地 全面積の45%に相当)、新規就農者、保有農地の拡大を図る経営体などにとっては、 マイナスに作用することになる。 このように、農業補助金と農地価格の問題は、両刃の剣と言えるが、次期農業法 の政府補助金のあり方と関連して、議論の一端を担うものと見られており、実際、 農家直接固定支払の廃止など独自の次期農業法案を提出したルーガー上院議員(共 和党・インディアナ州)は、同法案に対して、農地価格の下落を懸念する議論が出 てくるだろうと述べている。 こうした中、環境保護団体である環境作業グループ(EWG)が11月6日、農業 補助金受給者とその受給額を経営体の名称、郵便番号などで、検索できるデータベ ースをインターネット上で公表したことが話題となっている。このデータベース公 表の意図は、商品計画について、多額の補助金が大規模経営体に支払われているこ とをクローズアップさせることで、農業補助金に対する批判を高めて予算を減らし、 その分、環境保全関連の予算を増額させることにあると見られている。しかし、こ うしたEWGの動きについて、全米トウモロコシ生産者協会のトールマン最高経営 責任者は、主要な国会議員は、関連する農業補助金の背景を理解しており、彼らの 試みは次期農業法の議論には影響しないだろうと述べた。
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