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【ブエノスアイレス駐在員 玉井 明雄 11月14日発】アルゼンチンでは、2001年 3月の口蹄疫発生による主要な輸出市場の閉鎖により、国内における肉牛供給が過 剰となったことなどから、生体牛価格が大幅に下落している。アルゼンチン農牧水 産食糧庁(SAGPyA)によると、リニエルス家畜市場における7月の生体1kg 当たりの去勢牛平均取引価格は、前年同期比11.9%安の0.793ペソ(約97円:1ペ ソ=約122円)となった。さらに、10月は、同25.8%安の0.669ペソ(約82円)とな り、兌換(だかん)法導入(これにより、1ペソ=1ドルでの内外通貨の交換性が 制度的に保証)の翌年に当たる92年以降の最安値を記録した。 リニエルス家畜市場の肉牛取引は、同国の肉牛流通の約2割を占めており、同市 場の取引価格は、肉牛取引の主流である直接取引の指標となる。 中堅の食肉処理加工業者を主な会員とするアルゼンチン食肉商工会議所(CIC CRA)がまとめた月次報告書によると、リニエルス家畜市場における2001年1〜 10月の取引頭数は、前年同期比4.1%増の195万9千頭となった。この増加は、全カ テゴリーにおいて見られる。また、後半の7〜10月は、9.7%増の83万2千頭とな り、月別には、10月が36.3%増の23万8千頭と記録的な増加となった。こうした取 引頭数の増加に伴い生体牛価格が下落している。リニエルス家畜市場における取引 頭数の増加要因としては、@主要な輸出市場の閉鎖により、輸出向けの肉牛の直接 取引が減少し、家畜市場に出荷されたこと、A経営収支の悪化により資金調達を急 ぐ生産者が、直接取引に比べ代金決済の早い家畜市場への出荷を選択したこと、B 今年10月、ブエノスアイレス州やラパンパ州の肉牛肥育地帯において、降雨過多に よる影響で牧草地に浸水の被害が拡大したことから、生産者が今後の肉牛の仕上り 具合の劣化を避けるため、早期の出荷に動いたこと、などが挙げられる。 一方、同国の口蹄疫発生状況について、アルゼンチン農畜産品衛生事業団(SE NASA)は11月6日、プレスリリースを発表した。これによると、11月6日時点 における月別の口蹄疫発生件数(農場単位)は、3月が203件、4月が360件、5月 が604件、6月が540件、7月が324件、8月が68件、9月が17件、10月が1件とな っており、このうち、11月までにウイルスの活性が認められるのは1件のみとして いる。発生件数の減少について、SENASAは、口蹄疫撲滅計画の一環として実 施した段階的なワクチン接種や家畜移動制限措置などが功を奏したためとしている。 こうした家畜衛生状況が報告される中、アルゼンチン牛肉業界では、輸出先とし て重要視するEUによる牛肉等の輸入停止措置解除が待ち望まれている。EUの家 畜衛生調査団は11月19日以降にアルゼンチンを訪問し、前回のEU調査団が提示し た勧告事項(海外駐在員情報通巻第492号2001.7.17)を踏まえ、現地調査を実施 する予定であると伝えられる。CICCRAによると、EUによるアルゼンチン産 牛肉の輸入停止措置が解除されれば、去勢牛価格は、10月に比べ15%程度の回復が 見込まれるとしているが、長引く不況の影響で同国の牛肉需要が減退しているとの 推測もあるなど、本格的な価格回復については依然不透明な要素が多いとされてい る。
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