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【シドニー駐在員 幸田 太 11月21日発】豪州では99年から電子耳標を用いた全 国家畜個体識別制度(NLIS)が肉用牛生産者の任意参加で開始されているが、 豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)は、「ファームからフォークまで」(Farm to Fork)と銘打って、牛肉の小売販売とNLISのデータを連結し、追跡可能性 をさらに高める計画を発表した。 今回発表された計画の内容は、The European Article Number(EAN)と言わ れる国際方式のバーコードシステムとNLISの電子データとの結び付けを行うも のとされる。 この結び付けは、まず、試験的に、MLAと食肉処理加工業者であるオーストラ リア・カントリー・チョイス(ACC)社によって、試験的に実施され、加工され る製品の追跡可能性を確保するとしている。MLAでは、今後さらに国内で試験を 重ねることとし、米国向け牛肉輸出においても来年6月までには、豪州食肉協会 (AMC)の協力を得て試験を実施する計画があることを発表している。また、豪 州最大の食肉処理加工業者であるオーストラリア・ミート・ホールディング(AM H)社や日系資本の食肉処理加工業者も参加、実施の準備があることを示唆してい る。なお、ACC社は、製品の追跡可能性の精度をより高めるため、枝肉ごとのD NAサンプリングも試験的に行っている。 MLA開発担当のアトキンソン博士は、食品の安全性が世界的に重要課題となっ ており、消費者はその流通過程の透明性に対してコストを負担することになると述 べ、併せて、今回の計画ではさらに、豪州国内の統一的なシステムとすることによ り、効率性の向上やコスト削減なども期待できるとしている。 NLISが開始された背景には、EUが98年にEU向け牛肉への成長促進ホルモ ン剤の使用に関する検査体制の見直しと、肉牛生産農場まで確実にトレースできる 個体識別制度の確立を要求したことがあげられる。その後、EU向け牛肉に限りN LISが義務化された(「畜産の情報」2000年6月号参照)。 NLISは、農林漁業省、検疫検査局、豪州肉牛生産者協議会、豪州フィードロ ット協会など、政府・業界の団体で構成するセーフミートが管理運営の責任を負っ ているが、実際にはMLAがセーフミートからの委託によりその事務等を行ってい る。 MLAによると現在、NLISに参加している生産者数は6,400戸以上、家畜市 場は30、食肉処理場は18とされている。NLISに使用される電子耳標は、1個約 3.5豪ドル(約224円:1豪ドル=64円)であり、また、生産者が使用する電子耳標 読取り機器(集計およびデータ交信用コンピュータ含む、)が一式約4千豪ドル (約25万6千円、生産者聞き取り)でその費用は生産者が負担している。 一方、NLISの義務化をめぐり生産者団体と連邦政府の誰が費用を負担するか で意見が別れ、今年5月にトラス農相が、義務化に関して消極的な発言を行ったこ とは、記憶に新しく、今後も食肉産業界と政府の議論は続く模様である。 MLAは、今年末までにNLIS開始以来2年間の蓄積データを生産者へフィー ドバックする予定もあり、データの有効活用の糸口も見え始めた。今回の試験が成 功し確実なものとなれば、小売パックから食肉処理場、生産農場、さらに個体へと 追跡が可能となり、国内、国外を問わず消費者の高まる安全性への要求を満たすこ ととなるであろう。
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