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【ブラッセル駐在員 島森 宏夫 10月4日発】EU会計検査院はこのほど、生乳 クオータ制度についての報告書を公表した。同報告書の要約の抜粋は以下のとおり。 1 生乳クオータ制度は1984年に導入された。この制度は需給の不均衡を是正するた めのものだった。84年当時(10カ国)の自給率は120%であった。その後9年間で8% の生産減少措置がとられたが、その後はクオータに変化なく、EU15カ国の生乳生 産は1億2千万トンで安定してきた。EUの輸出シェアは減少したものの輸出量は 1,500万トンで変化なかった。それにも関わらず、2000年の改革では2.5%のクオー タ増加が決定された。 2 前回の報告書では91年までについての調査を行った。本報告ではそれ以降の措置 について検査を行う。 3 同制度の効果については、一般的に目標水準内の生産が達成されていると考えら れる。クオータを超えている場合の生産過剰量は1%未満と報告されている。クオ ータの設定により生産量は安定しているが、その設定は、補助なしの国内生産およ び輸出をもたらしていない。 4 また、同制度は各国における酪農分野の構造改革の大きな妨げにはなっていない。 EUにおける酪農家の大規模化と小規模農家数の減少傾向は継続している。さらに、 これまで増加傾向にあった生乳・乳製品のための共通政策予算は減少に転じている。 5 EU委員会および理事会は制度をより一層柔軟性のあるものにしたが、同時にク オータを減らすべきだった。加盟国は同制度の枠組みの下で、農家構造に関する様々 な政策を展開することができる。この結果、制度から生ずるはずの財政・経済的な 恩恵 の一部が失われた。 6 構造的な生乳生産過剰の処理には今後もEUによる相当な財政支持が必要であろ う。将来的には、EU加盟国の増加、消費動向、世界貿易機関(WTO)を通じた 輸出補助金の削減圧力により、財政負担はもっと増えるかもしれない。このような 背景の有無に関わらず、EU委員会は、補助金なしの生乳流通に向け、生乳生産を 縮小するという酪農分野の基本的な改革を提案する必要がある。 7 十分な介入価格削減をせずに各国のクオータを増加させた理事会決定では、耕種 作物分野と同様な生乳・乳製品分野の自由化は望めなくなった。EU市民は(自由 市場に比べ)割高な乳・乳製品への支出に加え、輸出補助など過剰生産処理について の年間約30億ユーロのEU支出も負担している。 8 イタリアでは、前回の報告でも指摘した過剰生産に対する課徴金徴収の遂行が今 なお困難である。また、スペイン、ギリシャでは問題は改善されつつあるものの多 額の課徴金負債が解消されていない。個別の生産者から課徴金が徴収できないと過 剰生産阻止効果が失われ生産過剰が助長される。また、(生産者からではなく)各国 からの課徴金の回収では、特定の生産農家への補助ということになり、競争が阻害 される。 9 EU委員会は、短期的には、異なる国の生産者同士でのクオータの移動による総 クオータの削減可能性について検討すべきである。また、2002年には、中期的に域 内消費および輸出における補助撤廃を目指した生乳生産ならびに同制度の終了、酪 農家の適正な生活水準確保に向けた基本的な提案をすべきである。
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