ALIC/WEEKLY


米政府反対の中、次期農業法案が下院を通過


【ワシントン駐在員 渡辺 裕一郎 10月5日発】 10月5日、次期農業法案が連邦
下院本会議を通過した(法案番号:H.R. 2646)。これは、2011年までの10年間で、
現在の予算規模に比べ約731億ドル(約8兆8千億円:1ドル=120円)増の総額約
1,700億ドル(約20兆4千億円)の財政支出を認めるというものであり、今年7月に
下院農業委員会で可決された後、今月に入り同本会議での審議が開始されていた。

 しかし、ホワイトハウスにある行政管理予算局(OMB)は10月3日、下院農業法案
を支持しないことを表明している。これは、ブッシュ政権として初めての正式見解
であり、同日、ベネマン農務長官も、9月19日に公表した食料・農業政策に関する
諸原則(通巻第501号参照)において提起されている近年の情勢変化が反映されてい
ないなどとして、OMBと同様の見解を述べている。先月のテロ事件に対する関連対策
の実施が目下の最優先事項となっているブッシュ政権にとって、先走り気味の下院
の動きをけん制するという意味合いもあった。

 その具体的な理由として、まず、低価格の下で生産過剰を助長するおそれがある
ことが挙げられている。下院法案では、現行の96年農業法で廃止された、主要作物
に関する価格変動に対応した不足払い制度の復活が規定されており、これによって
市場シグナルがわい曲され、かつてのような生産過剰を招くという懸念である。

 次は、真に支援を必要とする農家に補助がなされないという問題である。現在、
政府による支払いの半分近くは全体の約8%にしか満たない大規模経営に対して交
付されており、半数以上の農家には支払い総額の約13%しか行き渡らず、下院法案
ではこうした不均衡が増すだけであるとしている。

 また、国内補助金の大幅な増加は、世界貿易機関(WTO)の次期ラウンドにおける
米国の交渉ポジションを弱めるとともに、他国における国境措置引き上げの誘因に
もなるなど、米国産品にとって重要な海外市場の拡大を危うくさせるものであると
指摘。

 さらに、今後の経済情勢が不透明である中、10年間という長期にわたって農業予
算を増大させるということを決定するのは時期尚早であり、96年農業法が期限切れ
となる来年9月末に向け、十分に時間をかけて検討を行うべきであるとしている。

 一方、スローペースで進む上院では、法案提出に先立ち、農業委員会のハーキン
委員長(民主党)とルーガー少数党リーダー(共和党)が9月25日、次期農業法案
の目標を公表している。その内容は、例えば、農家所得対策に関しては、生産者と
政府が責任を分担し合い、市場実勢などを反映した合理的な保護が必要であるとす
るなど、前述の米農務省(USDA)の「諸原則」の考え方により近いものであると言
え、今後の上下両院における調整の困難性がうかがえる。

 なお、10月4日には、本年9月末をもって失効した北東部諸州酪農協定(連邦ミル
ク・マーケティング・オーダー制度よりも高い水準の飲用乳価格の設定を北東部6
州に限って認めるというもの)を再延長させるための条項を今回の下院農業法案に
付加するという動きも見られたが、関係州以外の中西部などの議員による反発によ
り却下され、下院の発意による復活の可能性は閉ざされた。


元のページに戻る