ALIC/WEEKLY
【ブラッセル駐在員 山田 理 10月11日発】欧州司法裁判所のレジェ法務官は10 月9日、パルメザンチーズに関する見解(Opinion)を公表した。これによると、 「欧州司法裁判所は、原産地呼称登録を受けた“パルミジャーノ・レジャーノ” (Parmigiano Reggiano)の品質特性を持たない“パルメザン”(Parmesan)チー ズのイタリア国内での生産を同国政府が禁止することを認めるべきである」との提 案を行った。 EU規則では、農産物の品質特性が生産地域に対して特別な関連を持つ場合、そ の農産物に関する原産地呼称の登録を認めている(原産地呼称保護制度:PDO)。 登録が認められた呼称については、他の類似製品などへの使用が一定の猶予期間 (5年間)の後、EU全域で禁止される。パルミジャーノ・レジャーノは96年にP DOに登録されている。 このチーズは、イタリア北部のパルマ地方を中心に、牛乳から生産される超硬質 チーズの1つで、粉チーズにして使われることが多い。熟成期間が長く、厳格な生 産基準の下で生産されており、その生産量は年間100トン程度に過ぎない。このた め、他のチーズに比較して、高値で取引されている。 イタリアのあるチーズ業者は、パルミジャーノ・レジャーノではない他の安価な チーズを使って“パルメザン”チーズのラベルを添付した粉チーズ製品(イタリア 国内では販売禁止)を製造し、主にフランス向けに輸出していた。 このため、パルミジャーノ・レジャーノ・チーズ協会は99年、誤解を与えかねな い表示の製品を製造・輸出したとして同業者を訴えた。イタリアでの裁判において、 訴えられたチーズ業者側は、イタリア以外の加盟国に輸出・販売される“パルメザ ン”チーズの生産をイタリアの国内法に基づき禁止することはEU規則に反すると 主張した。また、“パルメザン”が一般的な品名か、“パルミジャーノ”の正確な 訳語に当たるかについても、裁判の争点となった。このため、パルマ地域裁判所は、 EU規則の解釈について欧州司法裁判所に質問書を提出し、判断を仰ぐこととなっ た。 これに伴い、ドイツ、オーストリア、ギリシャ、イタリア政府およびパルミジャ ーノ・レジャーノ・チーズ協会は、欧州司法裁判所に対し、所見書を提出した。ド イツおよびオーストリア政府は、“パルメザン”は一般的な品名で、PDO制度で 保護された原産地呼称には当たらないと主張した。 しかし、レジェ法務官は、「“パルメザン”は一般的な品名ではなく、イタリア 語の“パルミジャーノ”の複数言語における正確な訳語であるとの認識を示し、P DO制度でパルミジャーノ・レジャーノに付与された原産地呼称の保護は、訳語で ある“パルメザン”にも適用される」とし、「チーズ製造者は、たとえ他の加盟国 へ輸出する製品であっても原産地呼称を保護されたチーズ生産地に地理的に近接し ていることを利用すべきではない」との見解を示した。 また、EUの規制前にイタリアの国内法で既に長期間、規制措置が行われていた ことから、「本件については、特別な例外や猶予期間を設ける理由はない」とした。 今回の法務官の見解は、欧州司法裁判所の最終判断ではないが、今後の審議に大 きく影響するものとみられており、EU域内で“パルメザン”とラベルに表示され たチーズ製品がパルミジャーノ・レジャーノから造られたものだけになるのも、時 間の問題かもしれない。
元のページに戻る