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【シンガポール駐在員 小林 誠 10月11日発】タイ上院と農業・協同組合委員会 は、9月末、合同で「鶏卵の消費促進と養鶏産業(鶏卵)に対する長期対策」と題 するセミナーを開催し、タイの鶏卵生産部門における問題点と対応について検討し た。このセミナーは、鶏卵生産部門が長期的に見て損失を生ずる構造になっている 問題をいかに解決するかという問題意識から行われたものである。このような構造 上の問題点はあるものの、養鶏に新規参入する農家が後を絶たず、鶏卵の年間生産 量は約82億5千万個となっており、国内需要を上回っている。 同国の鶏卵の輸出市場は、余剰分である約6千万個を吸収する規模から拡大でき ていないため、供給過剰により国内市場価格が下落している。鶏卵輸出時に業者が 受け取る関税還付金の額が、業者が実際に輸出相手国に対して支払う関税の額を下 回っていることも、輸出が停滞している原因となっている。セミナーでは、世界貿 易機関(WTO)における合意に伴う制約から、タイ政府は鶏卵輸出に補助金をつ けることが出来ないが、年間生産量が約105億個とタイをやや上回る規模のオラン ダは、1個当たり0.3バーツ(約84銭)の輸出補助金をつけることができるため、 年間19億7千万個の鶏卵を香港に輸出できているとして、関税局に対して還付金額 の見直しも求めている。 タイの鶏卵は生産コストが高く、同国民の間に鶏卵が健康に良くないと考える傾 向があるため、近隣諸国と比較して消費量が少ないことも問題とされた。1人当た りの年間鶏卵消費量は、マレーシアが246個、中国が269個であるのに対し、タイは 132個となっている。そこで、長期対策として、年齢別の最適鶏卵消費量の研究成 果を用いて、鶏卵消費促進策を開始することが上げられている。 一方、特に、若年層に鶏卵の栄養価を認識させることを目的として、学校給食用 鶏卵の制度を導入することも必要であるとしている。委員会は、現行の学校給食は、 予算額が少ないので、タンパク源として鶏卵を用いれば、少ない予算で十分な栄養 価を得ることができるとしている。 セミナーでは、このような国内需要の促進による対策のほかに、鶏卵の加工技術 の導入や輸出促進も提言された。鶏卵加工施設は初期投資額が大きく、これに対す る政府の補助も得られないことから、現在のところタイ国内にはこの施設がない。 セミナーでは、2000年の加工済み鶏卵の輸入金額が総額約2億バーツ(約5億6千 万円:1バーツ=2.8円)に達し、このうち粉卵が約1億8,800万バーツ(約5億2, 640万円)、液卵が約1,200万バーツ(約3,360万円)であるとして、これだけの資 金があれば国内に加工施設を建設し、輸入を減らすだけでなく、供給過剰分の処理 も行えるとしている。 農業・協同組合省畜産開発局は、同局としても鶏卵消費促進政策としては、心臓 医協会と連携して、鶏卵消費と健康の関係を慎重に調査しながら行うべきとの消極 的な反応を示している。一方、生産過剰対策として、同局は、生産者協会が飼養羽 数に応じた新規の生産者登録規制や種鶏の輸入規制によって対応すべきものである とし、政府としては産卵率の向上など技術的側面から生産コストの削減に協力する と述べるにとどまっている。
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