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【シンガポール駐在員 宮本 敏行 10月18日発】フィリピンをはじめとする東南 アジア諸国では、耕作の主動力としての使役目的で広く水牛が飼養されている。フ ィリピン農業省は、こうした水牛の役用としての使途を一歩進めて、乳用および肉 用としての資質を高めることにより、農民の所得増加に寄与する手段を探り始めて いる。 フィリピンは、アセアン主要国の中でも貧困層の割合が多く、就労機会の受け皿 としての農業の役割は極めて大きい。しかし、主要な産業である農業の分野でも、 機械化が立ち遅れていることから水牛の需要が高く、飼養頭数は増加基調にある。 99年における同国の水牛の飼養頭数は300万頭で、95年と比較すると11%増加して おり、工業化の進展とともに同期間に飼養頭数の半数以上が減少しているタイとは 対照的な道を歩んでいる。アセアン先進国のマレーシアやインドネシアにあっても、 急速な経済発展の中で飼養頭数が減少しているが、低所得層農民の農業活動を保持 するために水牛の頭数維持・増加を唱える声が大きくなりつつある。このような中、 水牛の将来的な活用について話し合うため、本年2月にタイにおいて、国連食糧農 業機関(FAO)などの主催により、アジア18ヵ国の政府関係者を集めた水牛発展 セミナーが開催された。 フィリピン農業省は、水牛のさらなる増頭を視野に入れるとともに、農村住民の 所得増加を図る目的で、フィリピン水牛センターを通して水牛事業発展プログラム を推進している。同センターは、92年に制定された水牛条例に基づいて水牛の様々 な用途の可能性を研究し、普及させる権限を付与された機関である。このプログラ ムの下で、同センターは試験的に、25頭の乳用水牛を単位に酪農に特化した地域を 各地に作り、採算性の検証や水牛をベースとした酪農事業の啓発を行ってきた。99 年には、ルソン島中部にそれらを統括する酪農地域を設け、同センターの本部機能 をここに移設している。 同センターは、地方政府や大学などの研究機関と提携しながら、新たに誕生した 酪農家集団や協同組合に対し、繁殖や飼養などに関する技術普及を行っている。ま た、集乳のための運搬車や冷蔵庫などの手配、さらには、生乳を民間の乳業会社へ 納める仲介にも携わっている。 また、同センターは近年、水牛の肉用および乳用としての潜在能力を最大限に発 揮させるために、インド産をはじめとした外国産との交配試験を盛んに行っている。 インド産水牛の体重は、フィリピン産の約2倍の700kgに達し、泌乳量も約6.7倍の 10リットルに及ぶとされる。今年、インドに置かれている同センターの研究施設よ り、310個のインド産水牛の凍結受精卵が到着した。これらは、国内の各農家が所 有する水牛に移植されたが、経過は今のところ順調で、来年4〜5月頃に子牛の誕 生が予定されている。また、これと並行して、フィリピン農業評議会や科学技術庁 など関連機関の援助により、今後少なくとも2万3千個以上の高品質水牛の受精卵を 作出するとしている。 地域経済の低迷が続く中、東南アジア諸国では、農村経済の活性化のために水牛 の潜在能力に注目し始めた。フィリピンはその草分け的な存在であり、各国の将来 的なモデルケースとしての役割に期待が寄せられている。
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