ALIC/WEEKLY
【シンガポール 宮本 敏行 9月6日発】タイでバイオガスの利用による環境保全 および省エネ対策が進んでいる。タイ政府は92年以降、500頭以上の豚を飼養する 者に一定の基準を満たすふん尿処理施設の設置を義務付けており、環境汚染に対す る畜産農家の関心が急速に高まっていることもこの一因となっている。 政府はこのほど、養豚農家を集めた環境保全に関するセミナーを中部のペチャブ リ県で開催した。数年前の同セミナーには100名程度しか集まらなかったが、今回 は400名に近い参加者があり、養豚農家の環境問題に対する関心の高まりを裏付け るものとなった。タイでは、2001〜2008年を対象期間として9億バーツ(約25億2千 万円:1バーツ=2.8円)を投じた全国的な取り組みのバイオガス振興プロジェクト が発足している。この試みには全国で総飼養頭数230万頭を保有する600戸の中〜大 規模養豚農家が参加している。予算の3割は政府が拠出するエネルギー保護振興基 金から充当される。同プロジェクトによって、毎時9,100万キロワットの電力供給 が期待され、さらに、副産物として7万6千トンの有機肥料の生産が可能とされてい る。 このプロジェクトに参加する養豚農家に対し、バンコク銀行はバイオガス事業の 進ちょく度合いおよび従前の借入額に応じて低利で資金を融資するとしており、民 間レベルでもこの事業の将来性に期待を寄せている。バイオガスの研究は、95年か らチェンマイ大学のバイオガス推進チームによって本格的に取り組まれてきたが、 一般に普及するには多額の初期投資がネックになるとされる。銀行をはじめとした 民間企業の積極的な資金協力は、同事業を普及させていく上で大きく望まれている ところとなっている。 近年では、タイでも家畜のふん尿などから発生する悪臭を畜産公害としてとらえ る風潮が強くなっており、98年に1,400万バーツ(約3,900万円)を投じてバイオガ ス装置を導入したラチャブリ県の養豚農家は、導入の理由として、近所の住民から の苦情件数が年々増え、養豚経営の継続が困難になりつつあることを挙げている。 同農家は2万頭の豚を飼養しており、バイオガス装置の導入で養豚業および家庭消 費における電力費の負担は従来の三分の一に低減できたという。同農家は、養豚農 家が一般社会と共存できるこの方法を是非広めていきたいとしている。 しかし、このプロジェクトを推進する国家エネルギー政策局は、幾つかの解決す べき問題があることを指摘している。タイでは現在のところ、バイオガスによって 生産された電気を電力会社に売却することができず、また、余剰ガスの専用ボンベ への圧縮にも多大なコストが必要となる。同局は、こうした諸問題を解決していけ るかが将来的な普及のかぎになるとしている。 タイをはじめとした途上国におけるバイオガス利用の意義は大きい。近年では、 研究機関がバイオガス装置を養鶏やゾウ飼育の分野にも導入するなど同技術の裾野 は広がりつつある。政府の支援体制の整備が望まれている。
元のページに戻る