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牛肉輸出検疫検査コストの政府負担を決定(豪州)


【シドニー 野村 俊夫 9月13日発】豪州連邦政府のトラス農相は8月29日、
牛肉を含む主要な農産物の輸出に関し、豪州検疫検査局(AQIS)による輸出
検疫検査コストの40%相当額を政府が負担すると発表した。豪州牛肉業界は、こ
れによって年間約2千万豪ドル(12億円:1豪ドル=62円)のコストを軽減でき
るとしており、豪州産牛肉の輸出競争力の強化につながると歓迎している。

 今後、AQISが牛肉業界団体などと具体的な協議を行うが、順調に行けば新
施策は本年11月1日から実施される見込みとされている。

 この新施策は、先般、アンダーソン副首相兼運輸・地方サービス大臣が公表した
「強力な地方、強力なオーストラリア」という総額2億3,500万豪ドル(約146億
円)の総合的な地方活性化政策の一貫として打ち出されたもので、牛肉、穀物、
乳製品、生体家畜、水産物、園芸作物、有機農産物の7品目を対象に、政府が輸
出検疫検査コストの一部を負担することによりこれらの輸出競争力を強化し、農
畜産業への依存度が極めて高い豪州地方経済の活性化を促進することを目的とし
ている。

 今回の施策の対象となった7品目のうち、その恩恵を最も強く受けるのは牛肉
業界だとみられている。豪州では、牛肉処理加工業者(パッカー)が牛肉を輸出
する場合、AQISによる厳しい工場検査に合格して輸出ライセンスを獲得しな
ければならず、かつ、各工場に輸出数量に応じた複数のAQIS検査員を常駐さ
せて毎日その製品検査を受けなければならない。このため、輸出ライセンスを維
持するための設備投資や、AQIS検査員の駐在費用・検査コストが業界全体で
年間5千万ドル(約31億円)に達するといわれている。

 これに対し、豪州政府は78年までAQISの牛肉輸出検疫検査コストを全額負
担していたが、財政支出削減方針に基づき、その負担率を79年には50%、88年に
は40%と徐々に減らし、91年には負担を全廃して全額を業界負担とした。ちなみ
に、豪州牛肉業界関係者によると、牛肉輸出の競争相手国である米国は政府が関
連コストの87%を負担、アイルランドも50%の負担を受けているという。このた
め、豪州の肉牛・牛肉関係者には当該コストの全額負担が豪州産牛肉の輸出競争
力を著しく弱めているとの不満が強く、業界団体がことあるごとに政府に負担の
再開を要請していた。 

 今回の豪州政府の決定に対し、豪州肉牛生産者協議会(CCA)は29日、過去
10年間にわたる地道な努力が報われたと歓迎する一方、海外のユーザーに対して
安全な牛肉を提供するべく、今後もAQISが現在の輸出検疫検査体制の高いレ
ベルを維持・向上させてほしいとのコメントを発表した。

 先般、発表された豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)の中期見通しでは、現
在の豪州肉牛・牛肉業界の活況が当分の間継続すると予測されているが、今回の
政府決定は、業界にとって強力な援護射撃になることは間違いないと思われる。



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