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【シンガポール 宮本 敏行 9月13日発】インドネシア政府は2005年を目途とし て、国内で消費する牛肉のほぼすべてを自給する計画を策定し、その実現に向けて 肉用牛の増頭計画を遂行している。しかし、政府の思惑とは裏腹に飼養頭数が減少 している地域も少なからずみられ、増頭政策の行方に懸念も広がっている。 東ヌサ・テンガラ州は、首都ジャカルタがあるジャワ島の東方に位置する群島州 で、乾燥した土壌と起伏に富んだ地形が稲作に向かないため、従来から肉牛飼養を はじめとした畜産が盛んな地域である。同州は消費地たるジャワ島への肉牛の供給 基地となっており、近年の牛肉需要の高まりから出荷される頭数も急増していると 言われる。 しかし、需要の増大に伴う肉牛の減少に歯止めがかからず問題視されるようにな ってきた。政府が行った家畜の飼養頭数に関するセンサスによると、同州の2000年 における肉用牛の飼養頭数は、70万頭台を維持した90年代後半と比較して30%以上 少ない48万6千頭になると予測されている。政府は、牛肉自給計画を遂行するため、 全国各地に関連施設を新設するなどして新たな飼養技術の導入・整備に取り組んで おり、同州にも家畜繁殖センターを設立したところである。しかし、地域の飼養農 家は、新たな品種の導入よりバリ種やオンゴル種といった生産性の低い在来種など を好み、人工授精よりも自然交配を依然として選択するなど伝統的な飼養方法を続 ける傾向が強く、生産力を回復させるための適切な飼養技術の普及が遅々として進 んでいないと言われる。 こうした肉牛の減少に適切な施策を講じてこなかったとして、州政府を非難する 声も高まっている。増頭に取り組む研究機関によると、目先の利益にとらわれて体 重300kg以下の牛のと畜を奨励したり、多くの肉牛ブローカーを呼び込んだ州政府 の責任は重いとしている。さらに、州内のチモール島における東チモールの分離独 立による社会混乱や、隣接するマルク州の宗教紛争による難民問題などの影響も飼 養頭数が伸び悩む原因の一つとされ、地域経済を支える畜産の先行きも予断を許さ ない状況となっている。 一方、南スラウェシ州でも肉牛の減少に懸念を寄せる声が急速に高まっている。 同州も、毎年、約6千頭の肉牛を東カリマンタン州に、約2千頭をジャカルタに出荷 する供給基地の一つであるが、州立家畜センターによると、近年は経済的な理由か ら繁殖雌牛を手放す農家が後を絶たないという。同センターでは頭数を維持する手 段として、と畜場に売却された繁殖雌牛を買い戻し、別の農家へ安価で売却するこ とで再生産への道を探ろうとしているが、この事業の予算は極めて限られているた め、抜本的な対策とはならないとしている。 牛肉の自給に取り組んでいる同国であるが、その前途は険しい。消費地から離れ た生産地ほど最新の技術が普及し難く、貧困から牛を手放さなければならないケー スも目立つ。経済再建の途上にある同国にとっては、貧困問題の解決のためにも、 その対策の一つとなる肉牛産業の振興に期待が寄せられている。
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