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【シンガポール 小林 誠 9月20日発】ベトナムの酪農の中心地である南部の ホーチミン市(旧サイゴン)では、今年6月以降、乳用未経産牛の価格高騰が続 いている。同国政府は、酪農開発を農業の最重要課題としており、急速な増頭と 生乳生産量の増加を目標に掲げているだけに、今回のような後継牛の不足による 価格高騰は生産コストを増加させるだけでなく、増頭目標にも影を落とすものと なっている。 ホーチミン市は、人口約600万人であり、首都ハノイ(約250万人)をしのぎ同 国最大の都市となっている。同市は、近年、近代化の進展が著しく、食品の小売 も伝統的市場方式から、フランスとの合弁によるコラ・スーパーなど大規模かつ 近代的なものへと変化してきており、牛乳・乳製品の消費も大幅に伸びている。 2000年末現在の同市の乳用牛頭数は約3万1千頭で、国内総頭数の約90%を占め るにいたっている。 市当局は、このところ同市の乳用未経産牛価格が急激に上昇しており、酪農振 興の妨げになることを危惧している。市の担当者によれば、今年9月の1歳齢の ホルスタイン雑種(レッド・シンディー種との交雑種でホルスタイン種の血量75 %のもの)の未経産牛の価格は1,200万ドン(約9万4,800円:1,000ドン=7.9円) という記録的な高値であり、前年同月の価格の1.5倍となっている。市内で酪農開 発の最も進んでいるクチ地区や第12地区などでは、ホルスタイン種の血量の高い 牛を求める傾向があり、この価格よりもさらに10%以上高値での取引を強いられ ている。一般に、先進的酪農家ほど能力の高い乳牛を求める傾向が強いが、国内 には高能力牛が著しく不足している。また、酪農家の中には、いったん予約して あった契約を一方的に破棄し、より高値を提示する仲買人に販売するものも出て おり、価格の高騰に拍車をかけている。仲買人の中には、同国としては大規模な 20頭の酪農家の牛群を5億ドン(約395万円)で買い取ろうとするものもおり、後 継牛不足は深刻な状況にある。 先に農業・農村開発省は、酪農開発を最重要課題に掲げ、今後10年間に乳用牛頭 数を現在の約5.7倍に増頭し、生乳生産量を現在の5万5千トンから約6.4倍の35万 トンに引き上げるという目標を発表した。しかし、ホーチミン市の国立南部農業科 学研究所は、一般に酪農家の飼養管理、繁殖管理技術は低く、自家生産後継牛の育 成に大きく期待できないうえ、生乳生産コストも上昇しつつあることから、将来的 には酪農経営が立ち行かなくなる可能性があるとしている。同研究所によれば、ホ ーチミン市周辺の生乳価格は1s当たり2,700〜2,800ドン(約21.3〜22.1円)であ り、この価格は周辺諸国の生乳価格や豪州およびニュージーランドからのオファー 価格である1s当たり2,200ドン(約17.4円)よりも高いものとなっている。 同市では、これまで、急速な経済成長に伴う飲用乳需要の拡大があって、このよ うな高い乳価が設定されてきた。しかし、現在調整中のアセアン自由貿易協定が発 効すれば周辺国からの飲用乳の流入が考えられ、同国酪農の収益性の悪化が懸念さ れる。このような状況の下、政府がどのように増頭、増産を達成するか、今後の推 移が注目される。
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