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【シンガポール 宮本敏行 4月4日発】インドネシア政府は、近年における肉牛 や山羊の飼養頭数の減少に歯止めをかけることを念頭に、スマトラ島をはじめとし た西部地域の一層の畜産振興に乗り出した。また、豪州企業との合弁でスマトラ島 に肉牛生産の拠点を設けるなど、海外資本を受け入れることで同地域の畜産業の活 性化を図る試みも始まっている。 同国では、宗教上の理由から豚肉の消費が少なく、牛肉や羊肉が鶏肉とともに重 要なたんぱく源となっている。しかし、同国の2000年における肉牛および山羊の飼 養頭数はそれぞれ1,100万頭、1,257万頭で、3年前の1997年と比較すると7.8%、 11.3%減少している。こうした飼養頭数の減少傾向を食い止めるため、農業省畜産 総局長はこのほど、スマトラ島など同国の西部地域を、消費地へ家畜を供給する生 産エリアとして育成していくと宣言した。特に、スマトラ島は、日本の本州の2倍と いう広い土地面積に対し人口は3千万人台に過ぎず、最大の消費地である首都ジャ カルタを擁するジャワ島に隣接していることから、今後の食料生産基地として大き な期待が寄せられている。 同国政府は、2005年を目途として、国内で消費する牛肉のほぼすべてを自給する 計画を策定し、その実現に向けて肉牛の増頭計画を遂行してきた。しかし、従来、 同国が肉牛飼養地域として開発に力を入れてきた東ヌサテンガラ州、西ヌサテンガ ラ州、南スラウェシ州、東南スラウェシ州、南カリマンタン州、東カリマンタン州、 バリ州といった中部地域では、近代的な飼養技術の普及の遅延や分離独立運動、宗 教紛争の多発などによって逆に飼養頭数が減少しているという。今回の畜産局長の 声明は、肉牛生産の拠点を、遅々として成果が上がらない従来の地域から新たな地 域へシフトしていく構想を表明したものと言え、同国における畜産政策の一つの転 換点として注目される。 また、同総局長は、今年中に2万頭の繁殖牛を輸入し、西部を中心として飼養頭数 の減少が見られる地域に供給していくと発表した。併せて、人工授精の普及を強化 するため、東ジャワ州のシンゴサリおよび西ジャワ州のレンバンに設置されている 種畜センターの機能を拡充し、今年は250万本の凍結精液の生産に努めたいとしてい る。さらに、凍結精液の広範な流通を図るべく、17州における新たな種畜センター 設立に着手する計画も示している。 一方、海外からの投資を受け入れることで、同地域を肉牛生産の拠点として振興 しようとする試みも始まっている。西スマトラ州投資委員会によると、豪州で3月 5〜7日に農業および食料に関するセミナーが開催され、西スマトラ州政府および 豪州の民間企業による肉牛生産の合弁事業が発足しつつあるとされる。同州政府は、 すでに法整備やインフラなどに係る実行計画の策定を完了したと言われ、新たな生 産拠点としての意気込みを表明している。また、他方では、南オーストラリア州政 府が、西ジャワ州における肉牛飼養を中心とするアグリビジネスへの投資を促進す る動きを見せており、西部地域に対する海外資本の投資意欲は次第に強まっている と言える。 インドネシアの西部地域は、スマトラ島北部のアチェ州の独立紛争など一部に不 安定要素は存在するものの、消費地に近いことから輸送コストやインフラなどの面 で有利な点も多い。同地域に対する期待は今後益々高まるものと思われる。
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