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豪州産乳製品の輸入禁止を示唆(フィリピン)


【シンガポール 小林 誠 4月11日発】フィリピン農務省のオルドネツ次官補は、
4月6日に行われた記者会見の席上、豪州のフィリピン産熱帯果実に対する輸入制
限措置に対抗するため、政府として豪州産乳製品の輸入停止措置を検討しているこ
とを表明した。豪州は、ガット・ウルグアイラウンド農業協定に付随して制定され
た衛生植物検疫措置の適用に関する協定(いわゆるSPS協定)に基づき、植物検
疫上の観点からフィリピン産熱帯果実の輸入を制限してきている。これに対して、
バナナなどの熱帯果実を主要輸出産品とするフィリピン側は豪州からの肉用生体牛
の輸入を禁止するなど、長期間にわたって両国の係争が続いてきた。生体牛をめぐ
っては、昨年、フィリピン国内の牛肉需給上の理由から輸入が再開されており、両
国間の係争も解決したかにみえていたが、今回は依然としてくすぶっていたフィリ
ピン側の不満が爆発した形となった。

 豪州の動・植物検疫は、世界的にも最も厳しいものであることは良く知られてい
るが、これは同国固有の野生動植物種の保護を目的として、SPS協定の「科学的
に正当な理由がある場合等においては、加盟国は国際的な基準よりも高いレベルの
保護水準をもたらす検疫措置を採用かつ維持することができる」という規定に基づ
くものである。フィリピン政府は、豪州がSPS協定を盾にフィリピン産バナナや
パインの輸入を拒否していることに不満を募らせており、WTO次期農業交渉が本
格化する直前の最近にいたって、アロヨ大統領が農産物貿易自由化推進をかかげ、
豪州などが主導するケアンズ・グループからの脱退を支持する旨を表明している。

 フィリピンでは2001年末現在、8,610戸の酪農家(うち、水牛4,269戸、牛3,991
戸、山羊350戸)が約11,000トンの乳を生産しており、生産量のうち67%が牛乳、
32%が水牛乳、1%が山羊乳となっている。同国の生乳換算による自給率は0.86%
ときわめて低い水準にあり、消費量のほぼ全量が輸入品および輸入品を原料とした
加工品となっている。フィリピン酪農庁(NDA)によれば、2001年の乳製品輸入
相手国は、豪州(39%)、ニュージーランド(32%)、アメリカ(9%)、オラン
ダ(4%)で総輸入量の84%を占めており、輸入総額は約212億ペソ(約551億円:
1ペソ=2.6円)と前年を19.3%上回っている。

 乳製品の輸入・加工大手としては、ネスレ・フィリピン社、NZMP社、アラス
カ・ミルク社、ブリストル・マイヤーズ・スクイブ社があるが、このうち加工原材
料の大半を豪州に依存しているアラスカ・ミルク社は、価格・品質共にニュージー
ランド産による代替が十分可能であるとの冷静な対応を示している。

 政府は、従来から、年々増加傾向にある乳製品の輸入に頭を痛めており、NDA
を中心として、生乳の国内自給率向上を目的とした「白の革命」を提唱しているが、
財源不足により思うような進展がみられていない。このため、輸入乳製品から差額
関税を徴収し酪農振興を行ったり、学校給食用牛乳に国産生乳の使用を義務付ける
などの措置を講じたいとしているが、現行WTO協定上疑義があることと、国内関
係者との調整が困難であることから実施に踏み切れていない。今回の農務省の発表
は、具体的な事項を含んでおらず、単に時期WTO農業交渉での交渉材料として行
われた可能性もあり、今後の推移が注目される。


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