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【シンガポール 宮本 敏行 8月8日発】タイの大手ブロイラー総合企業のサ ハ・ファーム社は、鶏肉製品の販売をめぐる各社の競合が一層強まる中で、国内 外の新たな市場でシェアを獲得するため、需要が高まる鶏肉加工品へのシフトを 強めている。 33年前に、1週間当たり500羽の生産規模で創業した同社は、2001年にはCPF (チャロン・ポカパン・フーズ)社やベター・フーズ社といったタイを代表する 他の鶏肉大手企業を抑え、冷凍鶏肉輸出部門で第1位に躍進した。同社は、初生 ひなの供給、ブロイラーの生産・加工から輸出を含む流通までを網羅したインテ グレーターである。ブロイラーの出荷羽数は1日当たり45万羽で、近代化された 300戸の契約養鶏農場を傘下に持つ。現在、初生ひなの生産量は年に1 億2,500万 羽であるが、2003年には2億羽に増羽する予定である。 同社によると、今年は8万4千トンの鶏肉輸出を計画しており、新たな市場開拓 のために国内外で需要が高まる加工品の生産および輸出を増やしていきたいとし ている。今年8月には、バンコク市の北東170kmに位置するロップ・ブリ県に、従 来の処理能力の2倍に相当する1月当たり2千トンの鶏肉加工品を生産する新工場 の竣工が予定されている。近年は経済の発展に伴い、タイにおいても付加価値の 高い加工品の需要が増大傾向にある。鶏肉ソーセージ部門でみると、市場規模は 年間100億バーツ(約290億円:1バーツ=2.9円)に成長しており、国内市場では CPF社とベター・フーズ社がし烈な競争を行っている。サハ・ファーム社は、新 工場の稼動によってこうした加工品の分野でもシェア獲得を狙っており、マレー シアやミャンマー、ラオス、カンボジアといったアセアン域内を手始めに、主要 な輸出市場である日本や欧州への輸出も強化していきたいとしている。 また、同社は、冷凍鶏肉輸出のライバルである他の国内企業や、国際市場で競 合するとされるブラジル産冷凍鶏肉との競争の激化を回避する意味でも、今後は 加工品へのシフトを加速していく必要があるとしている。 同社は近年、今や世界的な関心事となっている食肉の安全性に配慮して、抗生 物質の代わりに薬草を使用した「ハーブ鶏」の生産に傾注し国内外でシェアを伸 ばしてきた。こうした製品は、特に輸出市場で好まれており、他社の製品と比較 して1トン当り600ドル(約7万2千円:1ドル=120円)のプレミアムを獲得してい るという。 さらに、同社は、国内における販路拡大とコスト削減のために、中間業者を可 能な限り排した直販ルートの構築を推し進めている。昨年は、包装形態の見 直 しおよび製品ラインアップの充実が図られたことや、4万5千人に上る販売チーム の活躍で、10億バーツ(約29億円)の直販による売上増加を実現したとされる。 鶏肉加工品へのシフトを始めとして数々の独自戦略で国内外の地盤を固めつつ ある同社であるが、輸出の分野では先行きに懸念材料も見られる。近年、世界的 な鶏肉需要の高まりで好調を維持してきたタイの鶏肉輸出も、今年3月に欧州で 使用が禁止されている抗菌剤がタイ産鶏肉から検出されたことなどから、その勢 いは減速しつつある。こうした状況の中、同社は、欧州の基準が測定可能な残留 物質の検査機器をいち早く導入して、自社製品の信頼度を高めるとともに、前述 のハーブ鶏の生産を充実するなど、長期的な視点で鶏肉の安全性の確保に一層努 めたいとしている。
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