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【シンガポール駐在員 宮本敏行 11月28日発】インドネシアの豚の飼養頭数は、 97年後半に顕在化した経済危機の影響で、同年の832万頭から大幅な減少が続き、 過去5年間で最低となった2000年の飼養頭数は、97年と比較して34.9%減の536万 頭にまで大きく落ち込んだ。しかし、国際通貨基金(IMF) などの支援で、経 済回復へのてこ入れが進みつつあることから、2001年(速報値)は前年比9.5%増 の587万頭と、4年ぶりに前年を上回っている。 イスラム教では、豚は不浄な動物と位置付けられており、国民の大部分を占め るイスラム教徒が豚肉を食することはない。しかし、同国には多くの中国系住民 が移住しており、彼らが最も好む豚肉の消費量は年々増加する傾向にある。2000 年の国民1人当たりの豚肉消費量は0.55キログラムと依然として低い水準ながら も、前年と比較して19.6%増と大幅に伸びており、豚肉需要の増大傾向は今後も 続くものと思われる。 一方、インドネシアの豚の多くは中国系住民の農場で飼養されているが、経済 危機の影響でこうした養豚企業の多くが廃業に追い込まれたことから、同国は養 豚業の基盤を立て直す必要に迫られている。同国の豚は元来、ヒンドゥー教徒の 多いバリ州(バリ島)やキリスト教徒の多い東ヌサテンガラ州および西カリマン タン州で多く飼養されており、上記の 3州で全体の4割近くを占める。その中で もバリ州は、地理的に同国のほぼ中心部に位置しており、豚の飼養頭数も全国2 位の 98万頭と、今後の養豚基地としての役割が期待されている。 インドネシア農業省畜産総局は近々、豪州および米国の能力の高い繁殖豚300 頭を同州に導入する予定であり、同時に、バリ州を豚コレラの清浄地域にするた め、相応の予算措置を講ずるとしている。 現在、バリ州の一般農家で行われている養豚は数頭規模であるが、同局は、海 外からの繁殖性の高い優れた品種の導入によって、将来は10〜15頭規模に増加さ せることが可能であるとしている。また、同島の養豚産業の規模が十分に拡大し た暁には、州都デンパサールにおける豚肉の缶詰製造を産業化し、輸出産品とし ての育成を目指したいとしている。 さらに、バリ州はインドネシアで最も著名な観光地であり、訪問客による豚肉 需要の伸びも期待される。また、首都ジャカルタを擁し、人口の6割が住むジャ ワ島に隣接していることから、養豚基地としての役割は極めて重要なものになる と思われる。 なお、スマトラ島北部でも企業養豚が事業として成立しているが、この要因の 一つとして国内需要の増大のほか、地理的に近いシンガポール向けの生体豚輸出 が伸びていることが挙げられる。シンガポール国民の7割は中国系であり、その 食生活に豚肉は欠かせないものであるが、シンガポール政府は90年、環境問題の 悪化を理由に国内での養豚を一切禁止する養豚事業撤退政策を掲げた。また、99 年には隣国マレーシアの豚に深刻なウィルス性脳炎が発生したため、同年以降は マレーシアからの生体豚および豚肉の輸入も禁止している。従って、現在、シン ガポールへ生体豚を輸出できる近隣国は、インドネシアのみである。シンガポー ルは、スマトラ島北部のリアウ州ブラン島を生体豚の輸出エリアとして認定し、 資金を投入するなどインドネシアの養豚産業の育成にも協力している。
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