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【ワシントン駐在員 渡辺 裕一郎 11月26日発】 米農務省(USDA)は11 月15日、いくつかの酪農・乳業政策の実施に関する発表をまとめて行った。この 中には、過剰な政府在庫の削減を図るための脱脂粉乳買上価格の引き下げや、一 部のチーズに対する数量ベースの特別セーフガード(SSG)の発動などが含ま れている。今回の発表に際し、ベネマン農務長官は「酪農は、米国の農業経済上 最も重要な部門の1つであり、政策運営の面で最も複雑な部門の1つである」と して、「相互に関連したこれらの政策について同時にアクションを起こすことは、 酪農家や乳業にとって長期的にも最善の効果をもたらすものである」と述べた。 国内の酪農・乳業関係者から最も大きな注目を集めたのが、およそ1年半ぶり に実施されることとなった脱脂粉乳とバターの政府(商品金融公社:CCC)買上 価格の見直しである。これは「ティルト」と呼ばれるCCCの運営コスト削減のた めの手法であり、農務長官には、加工原料乳の支持価格の水準を固定したままで これらの買上価格を年2回以内変更できるという権限が与えられている。 前回 2001年5月末の見直しでも、脱脂粉乳の過剰在庫削減のためにその買上価格を引 き下げる一方でバター買上価格を引き上げるという価格操作が行われた(「畜産 の情報・海外編」2002年4月号・特別レポートを参照)。しかし、それでも脱脂 粉乳在庫は、減少するどころか逆に増加し、2002年9月末現在では、1年半前の ほぼ2倍の約54万トンにまで積み上がっている(この水準は、脱脂粉乳の年間国 内消費量の実に166%に相当する)。このため、先ごろ決定された干ばつ対策の 一環としての脱脂粉乳在庫の補助飼料としての活用や、海外食糧援助への仕向け などに次ぐ今回の買上価格引き下げとあいなったのであり、乳業団体の国際乳食 品協会(IDFA)からは、前回同様「感謝する」とのコメントが発表された。○乳製品買上価格の見直し状況(単位:ドル/100ポンド)
<前回>
<今回> ・脱脂粉乳 :90.00(△10.32) → 80.00(△10.00) ・バター :85.48(+19.99) → 105.00(+19.52) (加工原料乳支持価格:9.90ドル/100ポンドで不変) |
一方、生産者団体の全国生乳生産者連盟(NMPF)の見方は、今回も否定的であ る。11月20日のNMPFの声明文によれば、低迷する乳価に追い討ちをかけるように、 @今回の脱脂粉乳買上価格の引き下げは、(連邦ミルク・マーケティング・オー ダー制度における最低取引価格の低下を通じ)2003年の農家生乳販売価格を平均 0.74ドル/100ポンド(約2円/kg:1ドル=122円)引き下げ、全米の酪農家の 収入を総額12億ドル(約1,460億円)減少させる、Aこのうちの3億3千万ドル (約400億円)は、2002年農業法で創設された生乳所得損失契約(Milk Income Loss Contract:MILC。同法条文上の「全国酪農市場損失支払い(National Dairy Market Loss Payments)」に同じ)プログラムによる追加的な価格補てんによっ て埋め合わせされるとしても、残りの8億7千万ドル(約1,060億円)は、実質 的な酪農家の損失になる、B政府の支出も、こうしたMILCプログラムの追加額に 加え、脱脂粉乳在庫が減っても、冷蔵によるため保管料がかさむバターの買上げ 量が増えることなどから、さらに財政負担が増えると指摘している。 また、今回USDAは、輸入が急増しているアメリカンタイプのチーズに対する数 量ベースSSGを同日付けで発動する旨、さらには、今年9月に続く今年度(2002年 7月〜2003年6月)2回目の米国産乳製品に対する輸出補助金(乳製品輸出奨励 計画:DEIP)の交付を行う旨を併せて発表した。 このSSGの発動は、今年の夏以降、NMPFがUSDAに対して求めていた措置であり、 今年の発動水準3,600万ポンド(約1万6千トン)を超える4,800万ポンド(約2 万2千トン)の輸入が9月末現在で行われたため、今年12月末までの間、関税割 当数量を超える輸入に対し、通常の関税水準の3分の1が上乗せされた1.407ド ル/kg(約172円/kg)が適用されることとなった。しかしNMPFは、この決定を 歓迎しつつも、適用期間が短すぎるため、今回のティルトの影響を和らげるには 十分ではないとして、いささか不服の面持ちである。 DEIPの追加交付については、NMPFと米国乳製品輸出協会(USDEC)が、前回分 も含め、補助金受給のための入札案内が脱脂粉乳とチーズだけでなくバターに対 しても早期に行われるべきであるとコメントしている。なお、USDECは今年3月 以降、日本向けの脱脂粉乳とチーズを新たにDEIPの対象とするよう USDAに要請 を行っているが、これは今回も認められていない。
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