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余乳問題が再び深刻化(タイ)


【シンガポール駐在員 小林 誠 12月5日発】タイの生乳生産量は、1日当た
り 約1,300トン程度とされているが、輸入脱脂粉乳などから還元乳を製造した方
が低コストのため、余乳の発生が恒常的な問題となってきた。農業協同組合省畜
産開発局(DLD)は、この余乳問題を解消し、酪農振興を行うため、2001年か
ら、学校給食用牛乳(学乳)として供給される牛乳については国産生乳 100%使
用とすることを義務付けた。これにより、学乳供給期間中には1日当たりの生乳
生産量の約92%が学乳に消費されることになり、余乳問題は学校休業期間中だけ
の問題となった。
 
  昨年、この制度がうまく機能した背景には、同年上半期までの脱脂粉乳等の国
際価格が極めて高い水準で推移しており、還元乳が生乳を使用した場合よりも高
コストになったという事情がある。しかし、2001年下半期以降、2002年上半期末
までは、脱脂粉乳などの原料乳製品の国際価格が前年同期の半値程度にまで大幅
に下落したため、還元乳のコストが再び低下し、利幅が拡大している。このため、
学乳供給業者の中には、国産生乳の買入れ量を大幅に上回る量の学乳を供給する
者も現れて、余乳が再び大きな問題となり、何らかの対策が求められている。

  また、酪農協の全国組織であるタイ酪農協同組合協会は、学校の休業期間の余
乳処理を目的として、大手乳業7社と協議し、10月8日以降、7社による余乳の
ロング・ライフ(LL)牛乳への加工について合意している。しかし、7社は処
理を行う条件として、生乳1キログラムに対し、 200ミリリットル容のLL牛乳
5本を酪農協が買い入れることとしたため、現在、酪農協には100万カートンを超
えるLL牛乳が滞留している。余乳問題が一気に深刻化したのは、10月中旬から
1ヵ月間にわたる学期間休業(いわゆる洪水休暇)期間であり、11月19日には、
バンコク市の北方にあるサラブリ県のモクレク酪農協同組合が生乳20トン以上を
同県の政府機関庁舎前でまき散らすという抗議行動を行った。同酪農協は、組合
員数が1,200名であり、国内生産量の1割程度に相当する1日当たり130トン程度
の生乳を生産しており、余乳は同組合の存立を脅かす深刻な問題となっている。

  一方、政府においても、学乳の納入業者決定をめぐる不正が発覚し、その責任
を問われる形でDLDの局長が更迭されるなど畜産をめぐる問題が相次いでおり、
大幅な機構改革を行ったばかりのDLDにとって厳しい状況が続いている。この
ような状況からも、協会は11月29日、今後の学乳事業の推移いかんによっては、
16酪農協が破産するとの見方を公表しており、残りの10酪農協も負債額は1,500
万バーツ(約4,200万円:1バーツ=2.8円)以上と、危機的な状況にあるとして
いる。

  このような状況をふまえ、農業協同組合省は、早急に国内75ヵ所の生乳処理施
設の検査を行って生乳使用状況を把握するとともに、@学乳供給業者の登録に祭
し、生乳調達酪農家と乳牛頭数のリスト提出の義務付け、A学乳供給業者に年間
を通しての生乳買入れを義務付け、販売額の5%相当額を各県の学乳運営機関に
預託、B2003年1月1日以降、学乳の容器に牛乳の種類別シール貼付を義務付け、
C学乳供給区域の線引きの変更、の4項目の対策を実施し、余乳問題の解決に努
める方針であることを表明している。

  しかし、余乳問題の解決には、タイで進行中の1村1品運動に牛乳を含め、需
要の底辺を拡大することが必要であるという意見や、まずは粉乳類の輸入規制を
強化することが必要であるという意見も根強くあり、今後の推移が注目される。

 

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