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シンガポール駐在員事務所【 小林 誠、宮本 敏行 】 1.EUのタイ産鶏肉輸入禁止措置への対応を決定(タイ) タイ農業協同組合省畜産開発局(DLD)は3月20日、EU向けに輸出されたタ イ産鶏肉から、EUでの使用が禁止されている抗菌剤ニトロフランの誘導体が検出 され、EU委員会がタイ産鶏肉・鶏肉調製品の輸入を一時禁止したとの発表を行っ た。DLDは、この問題の解決に向け、8月にはEUと同種の検査機器を導入した 中央検査所を設立し、輸出向け鶏肉のすべてのロットについて事前検査を義務付け た。しかし、その後も検出例があったことから、DLDは10月1日、特定の農家で 生産された鶏肉のみをEU向けとする標準農家制度を導入し、輸出鶏肉の衛生品質 を生産段階からコントロールする方式に移行した。同国の鶏肉・鶏肉調製品にとっ て、EUは日本に次ぐ輸出相手先であり、EUの輸入規制による影響は大きいが、 日本向け輸出量が増加したため、2002年の輸出量は前年を上回る見込みである。 2.豪州とハラル食品の管理協定を締結(マレーシア) マレーシアのラフィダ貿易産業大臣と豪州のベイル貿易大臣は7月28日、イスラ ム教徒が食することが可能なハラル食品の認定・表示基準や流通・販売などの管理 体制に関する協定を締結した。これは、豪州によるマレーシア向け農畜産物輸出や 豪州企業がマレーシア国内でハラル食品を製造することを可能にするとともに、世 界で最も厳格にハラルを実践していることを自認するマレーシアが世界のハラル食 品の生産・輸出のハブとして機能する青写真を描いたものとなっている。両国が手 を携えたことで、世界のハラル食品の需給構造が大きく変わる可能性も指摘されて いる。 3.豪州産乳製品の輸入禁止を示唆(フィリピン) フィリピン農務省のオルドネツ次官補は、4月6日に行われた記者会見の席上、 豪州のフィリピン産熱帯果実に対する輸入制限措置に対抗するため、政府として豪 州産乳製品の輸入禁止を検討していることを表明した。豪州は、衛生植物検疫措置 の適用に関する協定(SPS協定)に基づき、植物検疫上の観点からフィリピン産熱 帯果実の輸入を制限してきた。しかし、政府の直接関与による輸入制限などの対抗 措置は、国際協定上問題があることから、11月には大手乳業会社による「自主的な 」豪州産乳製品輸入削減措置を示唆するものへトーンダウンした。 4.余乳問題が再び深刻化(タイ) タイでは、8月に学校給食用牛乳(学乳)の納入業者決定をめぐる不正が発覚し、 その責任を問われる形で農業協同組合省畜産開発局長(DLD)が更迭されたのを はじめ、畜産をめぐる問題が相次いで表面化した。同国では、輸入乳製品による還 元乳製品の方がコストが低いことから生乳の利用が進まず、これまで同国の酪農は 常に余乳問題に悩まされてきた。昨年、DLDが学乳への生乳100%使用を義務化 したことにより、余乳問題もいったん沈静化したかに見えていた。しかし、2001年 下期から2002年上期末まで、原料乳製品の国際価格が下落したことから、国産生乳 使用義務の順守が危うくなり、12月になって余乳問題が再び深刻化し、国内酪農協 の存立を揺るがす事態に発展した。 5.鶏卵の消費拡大キャンペーンを展開(タイ) タイでは、鶏卵生産輸出協会が中心となって、今年の鶏卵消費量を昨年より3.1 %多い93億100万個とした消費拡大キャンペーンが繰り広げられた。同協会は、消 費者の「鶏卵はコレステロール値上昇の元凶である」といった固定観念を払拭する ため、ポスターやステッカーなどを多用し、「優れた栄養食品」としての鶏卵のイ メージアップに努めた。近年の鶏卵価格の上昇により、鶏卵業界には明るい兆しが 見え始めたが、政府による余剰卵対策に加え、消費者の鶏卵に対する意識改革に迫 った。 6.中国と畜産物輸出体制整備を協議(ミャンマー) 中国雲南省第一農業部の要請を受け、ミャンマー畜水省は、5月15〜21日の7日 間にわたり、雲南省昆明市へ代表団を派遣した。今回の代表団派遣は、昨年末、中 国の江沢民主席がミャンマーを訪問した際に両国が合意した貿易促進の具体化の一 環として、畜産分野の貿易上問題となる動物検疫に関する問題を解決することが主 な目的であり、ミャンマー側では中国のWTO加盟に伴う畜産物輸出拡大に対する期 待が高まっている。本件では、7月末に中国側の代表団がヤンゴンを訪問し、中国 の資金援助により、ミャンマー側国境のムセ市に動物検疫所を建設する他、ミャン マーに対して技術援助を行うことで最終合意した。 7.メコンデルタで酪農振興が始動(ベトナム) ベトナム農業・農村開発省は、6月14日にメコンデルタ地帯の中心都市であるカ ントー市で開催されたセミナーに各県の普及担当者や農家を集め、酪農に必要な淡 水の地下水が得られるドンタップ、アンザン、カントー、ロンアンの4県の乳牛を 現在の900頭から、2005年には1万7,800頭にまで増やす計画を公表した。同国の酪 農は、ホーチミン市を中心に発展してきたが、同市に近接するメコンデルタ各県で は、年間1人当たりの牛乳消費量が1.5キログラムと国内でも極めて低い水準にあ るため、酪農の将来性は大きいとみられている。カントー市では、すでに、年間処 理量3万7千トン規模の生乳処理施設が稼動しているが、稼働率が4割以下と低い 水準のため、生乳を急激に増産しても処理面での問題はない。 8.CPF社、鶏肉生産の大規模複合施設を建設(タイ) タイの大手総合食品会社であるチャロン・ポカパン・フーズ(CPF)社は1月 、2003年までに40億バーツ(約120億円:1バーツ=3円)を投じて、バンコク市 の北東250キロメートルに位置するナコン・ラチャシマ県に鶏肉生産に係る大規模 な複合施設を建設すると発表した。同社は、同地に鶏の飼養から鶏肉生産までを一 貫して行う体制を整え、近年、世界的に拡大している鶏肉需要に備えるとともに、 衛生面やコスト面での優位性を生かし、輸出市場で競合するブラジル産などに競り 勝ちたいとしている。 9.鶏卵の生産量、大幅増の計画が進行(シンガポール) 中国のシャンドン・リウ社とシンガポール資本との合弁により、数年前に設立さ れたN&N農業社は、シンガポール国内に総工費2,500万シンガポールドル(約18億 円:1シンガポールドル=72円)を投じて採卵鶏100万羽規模の養鶏場を建設中で あることを公表した。同養鶏場は、2003年に完成予定であり、完成のあかつきには 東南アジア最大規模の養鶏場となる。鶏卵は、シンガポールにとって唯一といって も過言ではない自国産畜産物であり、自給率も3割程度となっている。 10.ブロイラー企業の寡占化の進行に懸念広がる(インドネシア) インドネシアのブロイラー産業は、90年代後半の経済危機の影響で飼養羽数が半 減した事態に陥ったものの、近年は力強い復活を遂げつつある。こうした中、2002 年には初生ひな価格が急騰し、小規模養鶏農家で構成されるインドネシア養鶏農家 協会や全国養鶏農家協会は、大規模インテグレーターが利己的な価格操作を行って いるとして不満を募らせた。これらの生産者団体は、大企業の寡占化が一段と進行 する中で、小規模養鶏農家の保護のために政府が積極的に介入を行うべきとしてい る。
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