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ワシントン駐在員事務所【渡辺 裕一郎、道免 昭仁】 1.保護主義的色彩の強い新農業法が成立(米国) 5月13日、今後10年間で828億ドルもの追加的な予算支出を認める米国の新農業 法(2002年農業法)が成立した。この中には、穀物などに対する不足払い制度の実 質的な復活や、酪農家への新たな乳価補てん制度が盛り込まれるなど、96年農業法 が目指した市場志向型からは逆行する国内農業保護色の強い内容となっている。本 法に基づき2年後の義務化が予定されている食肉などを対象にした原産国表示制度 についても、その厳格な内容について内外からの反発は多く、また、財政収支が再 び赤字に転落する中で、今後、軍事的経費の増加などのあおりを受け、農業法予算 の縮小は避けられないとの見方もある。 2.深刻な干ばつ被害に対する緊急的な畜産農家支援策を実施(米国) 今年は、米国・カナダの西部山岳地帯から大平原の一帯や、米国の東海岸中部を 中心に、近年で最も深刻な干ばつによる被害が広がった。米農務省(USDA)は5月 以降、放牧地の草資源不足に対し、環境保全目的の休耕農地での放牧や採草利用を 認めるという対策を打ち出すとともに、9月には、干ばつ被害地域において家畜1 頭単位の定額助成金を支払う畜産補償プログラムの実施を決定した。しかし連邦議 会では、耕種作物農家などへの対策が不十分であるため、新農業法の枠外で追加的 な災害対策を実施すべきとの声も根強く残っている。 3.食肉製品の大規模な自主回収が相次ぐ(米国) 米国では、7月にコナグラ社が腸管出血性大腸菌O157汚染の疑いでコロラド州の 工場産牛ひき肉製品など約9千トン(過去3番目)、10月にはピルグリムス・プラ イド社がリステリア菌汚染の疑いでペンシルベニア州の工場産家きん肉製品約1万 3千トン(過去最大)をそれぞれ自主回収するなど、大規模なケースが相次いだ。 なお、食肉製品の自主回収件数も、2000年75件、2001年95件、そして今年(12月12 日時点)は127件と、年々増加傾向にある(このことは、むしろ関係者によるチェッ ク体制が強化されたためと見るべきなのだろうか)。 4.慢性消耗性疾患(CWD)の発生拡大に対し、連邦政府が対策を強化(米国) シカやエルクに見られる慢性消耗性疾患(CWD)の発生は、米国では、今年に入っ てから新たに3州が加わり、合計10州にまで広がっている(カナダは2州)。こう した状況を受け、昨年9月のUSDAによるCWD撲滅プログラムの開始に次いで、今年 6月にはUSDAと米内務省(野生動物保護などを所管)が共同でCWD管理計画を策定、 11月には食品医薬品局(FDA)が人間に対するCWDの危険性調査の開始や患畜の飼料 原料への利用禁止措置を導入すると発表するなど、連邦政府レベルでのCWD対策強 化の動きがさらに活発化した年でもあった。 5.今後5年間の新たな農業政策の枠組みを策定(カナダ) カナダ連邦政府は6月20日、昨年各州政府との間で合意された基本計画に基づく、 食品安全性・品質、環境、経営リスクマネージメントなど5分野にわたる2003年以 降5年間の新たな農業政策の枠組み(APF)を発表した。特に、カナダでは7月1 日から義務的な牛個体識別制度の完全実施が図られているが、今回のAPFにおいて は、すべてのフードチェーンにおける追跡システムの構築を支援する旨がうたわれ ている。しかしその後、ケベックなど3州の合意が得られなかったため、まずは一 部の州だけでのスタートとなっている。 6.西海岸での港湾閉鎖が農産物貿易にも影響(米国) 労使交渉の決裂によって9月27日から西海岸29港が閉鎖されるという事態に対し、 10月8日、ブッシュ大統領がタフト・ハートレー法を発動し80日間の冷却期間が設 定されたことから、翌9日には業務が再開され、事態の長期化は回避された。しか し、年末商戦用の手当てが活発化していたこの時期、食料品のコンテナ輸出金額の 65%を占める西海岸の機能停止は、航空便での振替輸送によるコストの増加など、 食肉などの対日輸出にも大きな影響が及んだ。なお、冷却期間中の交渉が実を結び、 11月25日、労使は実質的な合意に至っている。 7.国土安全保障省の設置が決定、動植物の輸入検疫体制も強化(米国) 昨年9月11日の同時テロ事件の発生から1年2カ月を経た11月25日、ブッシュ大 統領の署名により、自らが提唱した国土安全保障省設置法が成立した。同省は、来 年1月24日に発足、同9月末までに各省庁の関係組織が完全に移管される。今年8 月の米会計検査院(GAO)報告では、口蹄疫の侵入防止のためにはUSDAと税関との 情報共有体制の改善が必要との勧告がなされたが、バイオテロ防止の一環でUSDAの 動植物輸入検疫業務と米関税局の組織・機能が国土安全保障省に移管される予定で あり、GAO勧告の実施は現実のものとなりそうだ。 8.連邦政府、BSE対策のさらなる強化を図るための検討を本格化(米国) 昨年11月公表のハーバード大学によるBSEの危険性評価報告書を受け、USDA食品 安全性検査局(FSIS)は1月16日、食品安全性の観点から、特定危険部位(SRM) の食用向け禁止や先進的食肉回収システム(AMRS)における脊髄除去の明確化とい った追加的規制に関する政策オプション・ペーパーを公表し、一般からのコメント を募集。また、飼料を所管するFDAも11月6日、レンダリング原料からの脳や脊髄 の除外、飼料工場での交差汚染防止策などに関するコメント募集を開始するなど、 BSE対策のさらなる強化に本腰を入れ始めている。 9.オーガニック食品の全国統一表示制度が正式にスタート(米国) 10月21日から、オーガニック(有機)食品の生産、表示、認証などに関する全国 的な統一基準が施行された。以降、USDAの認定ロゴマーク「USDA ORGANIC」の表 示が認められるのは、重量の95%以上がオーガニック基準に適合した生産によるも のであるとUSDAの認可検査機関が認証したものに限られ、違反には罰則が適用され る。オーガニック畜産物については、給与飼料や飼養形態などに関する基準をクリ アする必要があり、特に近年では、比較的対応が容易であると考えられる肉用鶏の 認定羽数の増加が著しい。 10.検疫・衛生問題による輸出停止で、鶏肉の輸出量が大幅に減少(米国) 米国の家きん関係業界にとって、今年は2つの深刻な輸出停止問題が発生した年 であった。1つは東海岸諸州を発端とした鳥インフルエンザの発生によるもの(こ れを受けて1月以降、日本やメキシコなど数カ国が米国産家きん製品の輸入停止措 置を実施。現在は数州を除いて解除)、もう1つは、米国の生産・加工段階におけ る薬剤使用などを問題視したロシアによる輸入停止措置である(3月以降停止され、 8月の2国間合意後に解除)。これらの影響で、今年1〜9月の米国の鶏肉輸出量 は、前年同期比で14%の減少となり、国内でだぶついた鶏肉だけでなく、牛肉や豚 肉の価格低下要因ともなった。一方、こうした輸出国での家畜疾病などの発生は、 輸入国における食料の安定確保をいとも簡単に脅かすということを改めて認識させ るものでもあった。
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