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亜国農業、通貨切り下げチャンスを生かせるか


【ブエノスアイレス駐在員 浅木 仁志 1月31日発】1ドル=1.4ペソの公定固
定相場に変動相場制を併用した二重為替相場制をアルゼンチン政府が導入したため、
ペソに対する先安感は強い。預金引き出し制限措置を解除すればペソ預金でドル買
いが殺到し、ドル高ペソ安からインフレの恐れがある。一方長期にわたる預金引き
出し制限措置は経済活動を停滞させ、商業取引や市民生活に大きな打撃を与えてい
る。同国の農畜産物は通貨切り下げで輸出競争力がつくとの単純なシナリオもある
が、農業部門が抱える膨大なドル建ての借金、輸入に頼る農業関連資材のコストへ
の跳ね返り、輸出税復活の恐れ、今後さらに広がると予想されるドルとペソの為替
格差など問題が山積みしている政治経済状況の中、農業については次のような問題
がある。

(ブラジルとの穀物取引)

 ブラジルが輸入する小麦の大半はアルゼンチン産で、メルコスルの関税同盟によ
り無税で入ってくる。以前からブラジルは、アルゼンチン産の小麦価格と品質にク
レームをつけ、貿易摩擦の火種になっていた。二重為替相場による外国為替取引き
の混乱やそれに伴う穀物価格下落の思惑からアルゼンチン産穀物の相場が立たず、
ブラジル向け小麦輸出は一時停止している。そこでブラジルはかねてから検討して
いた11.5%の小麦の域外関税を撤廃し、米国とカナダから小麦を輸入する姿勢を見
せている。現在ようやく公定固定相場で一部取引が再開され、アルゼンチンの経済
変動以前に契約した少量の小麦がブラジル向けに輸送される見込みである。しかし、
新規契約が成立しない場合、2月中旬で在庫の底がつくとされるブラジルは、域外
関税を撤廃し他国から小麦を輸入するとされ、その場合アルゼンチンは重要な市場
を失う恐れもある。

(牛肉輸出)

 EU向け高級牛肉は、昨年3月の口蹄疫発生を受け、昨年4月以降輸出実績はな
く、2000年は、EU向け高級牛肉枠(ヒルトン枠)の割当量28,000トンのうち5,4
00トン(製品ベース)の輸出に終わった。

 EUは2月1日からアルゼンチン産生鮮牛肉の輸入を認め、また、イスラエルも
続いて解禁した。現在、ロシア市場解禁に向け交渉中だが、チリはアルゼンチンの
清浄国認定を延期している。

 家畜衛生措置が厳しくなりEUに輸出できる生産者が限られたこと、食肉処理加
工業者に輸出再開の資金が不足していること、預金引き出し制限措置で取引決済が
麻痺していることなどで、2001年分として輸出できる期限の6月30日までに必要な
ヒルトン枠の量が確保できるか憂慮されている。農牧水産食糧庁は期限を延ばすよ
うEUに求める一方、昨今の情勢により同庁の業務が停滞しておりヒルトン枠の配
分を未だ実施していないものの、まず輸出実績のある大手の食肉処理加工業者から
出荷をはじめるしかないとしている。

 不安要素としてはコルドバ州南部で最近発生した口蹄疫であり、EUは地域主義
に基づき同州を解禁から除外する見込みだが、同州は肉牛生産地のパンパにあり、
口蹄疫が再びパンパに広がれば、今回の解禁の意味はなくなる。


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