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【シンガポール駐在員 宮本 敏行 2月7日発】タイでは、昨年末から鶏卵生産 輸出協会が中心となって鶏卵の消費拡大キャンペーンが繰り広げられている。タイ における2000年の鶏卵生産量は前年比3.7%増の49万4千トンで、3年振りに前年 を上回ったものの、近年は微減傾向が続いている。同年の1人当たりの消費量も5 年前と比較すると7個少ない132個で、フィリピン(49個)やインドネシア(40個) と比較するとかなり多いものの、マレーシア(293個)の半分以下に過ぎない。 鶏卵の消費増進を図るため、鶏卵生産輸出協会は、今年の鶏卵消費量を昨年より 3.1%多い93億100万個とする計画を念頭に置いた消費拡大キャンペーンに取り組ん でいる。同協会は、消費者の意識の中に強く刷り込まれている、鶏卵はコレステロ ール値上昇の元凶といった観念を払拭するため、ポスターやステッカーを多用して 優れた栄養食品である鶏卵のイメージアップに努めている。特に、40歳代以上の年 配者に鶏卵の取り過ぎに懸念を持つ割合が高いとした上で、同じアジアの長寿国で ある日本を引き合いに出し、こうした思い込みは全くナンセンスであるとのPRに も余念がない。 99年の鶏卵価格は供給過多により低迷し、一時はコスト割れの状況を引き起こし た。そこで政府は、生産者からの鶏卵の買い上げおよび冷蔵保管に6千万バーツ (約1億9千万円:1バーツ=3.1円)、また、飼料用トウモロコシの購入援助に4, 100万バーツ(約1億3千万円)の予算を計上して鶏卵価格の下落阻止に奔走した。 こうした措置により、2000年以降、鶏卵の卸売価格は上昇に転じ、2000年は1個当 たり前年比30.5%高の1.54バーツ(約4.8円)、2001年は同9.1%高の1.68バーツ (約5.2円)となっている。一方、2001年における1個当たりの農家販売価格は1. 50バーツ(約4.7円)で、生産コストが1.45バーツ(約4.5円)程度であることから、 生産者は再生産が可能な利益を確保しているとされる。また、鶏卵価格が上昇傾向 にあることから種鶏の輸入増加の動きも見られ、今年の1週間当たりのひな生産量 は前年比10%増の68万9千羽になると試算されている。 タイは昨年、シンガポールへ3,600万個の鶏卵を輸出しており、国内消費の伸び 悩みから輸出量は増加傾向にある。ひなの供給が増加することによる余剰卵は輸出 に仕向けられることとなるが、同協会によると、現在は国内の鶏卵価格が高騰して いることもあり、これに加えて消費拡大キャンペーンが奏効すれば、輸出を大幅に 減らすことが可能としている。 また、鶏肉や鶏卵の大手輸出企業であるベタグロ・アグリフーズ社を中心とする 業界関係者は、鶏卵の消費をさらに高めるためには、1日に10〜50万個発生すると 言われる破損卵や規格外品を処理する粉卵加工場の建設を政府が主体となって急ぐ べきとしている。工場の建設には1億8千万バーツ(約5億6千万円)の資金が必 要と試算されており、国家畜産政策委員会は、当プロジェクトの責任者として農業 協同組合省副大臣を指名した。また、学校給食に鶏卵を導入するスクール・エッグ 構想の検討も進むなど、鶏卵の消費拡大に向けての取り組みは着々と広がりを見せ ている。 政府の市場介入による近年の鶏卵価格の上昇により、鶏卵業界には明るい兆しが 見え始めてきた。政府による余剰卵対策に加え、業界が推し進めるキャンペーンが いかに消費者の鶏卵に対する意識改革に迫ることができるか注目される。
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