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【シンガポール駐在員 宮本 敏行 2月21日発】フィリピン養鶏業者連合会がこ のほどまとめた報告書によると、今年の同国のブロイラー業界は、前年から続くひ なの供給過剰や生産コスト増、安価な輸入鶏肉への懸念などにより先行きに不安を 募らせている。同連合会は、世界貿易機関(WTO)農業合意などによって国内産 業が苦境に立たされる中、こうした状況を打開するための政府による支援の必要性 を訴えている。 フィリピンにおける2000年のブロイラー飼養羽数は前年比16.5%減の2,902万羽 で、97年の4,656万羽をピークに減少を続けている。他のアセアン各国との比較で も、インドネシアの5億3,087万羽はもとより、タイの7,448万羽、マレーシアの7, 951万羽(99年)より大幅に少ない。2000年の1人当たりの鶏肉消費量も7.1kgで年 々微増傾向にあるが、マレーシアの29.5kg(99年)、タイの13.5kgにはまだ大きく 水をあけられている。 同連合会がまとめた報告書によると、今年のブロイラー業界は、@ひなの供給過 剰、A経済不振による消費減退、B生産コストの上昇、C鶏肉の小売価格の上昇、 D米国産を中心とした安価な鶏肉輸入などの問題に直面し、不利なスタートを切ら ざるを得ないとし、ひなの供給が高水準であることから、長期化する不況の下で鶏 肉消費が減退すれば養鶏農家の損失は、ますます大きくなると警告している。さら に、そうした状況に陥る前に、増羽し過ぎたひなを出荷前に淘汰するインテグレー ターも出始めているとし、今のブロイラー業界の状態が極めて深刻であるとの認識 を示している。 ここ数年のフィリピンの経済は、97〜98年に深刻化した経済危機の底を脱したと はいえ、長引く不況の下で国民の経済活動には閉塞感が広がっている。通貨ペソの 下落は飼料など生産資材の輸入価格の上昇をもたらしており、現在、ブロイラーの 農家販売価格が1s当たり40ペソ(約112円:1ペソ=2.8円)であるのに対し、生 産コストは前年比26.3%高の同48ペソ(約134円)とコスト割れの状況を引き起こ している。一方、労賃や光熱費などの引き上げでブロイラーの小売価格は上昇傾向 にあり、2000年の1s当たりの小売価格は、95年と比較して12.4%高の80ペソ(約 224円)となった。同連合会は、継続的な小売価格の高騰は消費者の鶏肉離れにつ ながるとして警戒感を強めている。 また、2000年に米国産を中心とした安価な鶏部分肉の輸入急増で市況が暴落した 教訓から、業界関係者は輸入の動向にも神経を尖らせている。現在、米国産鶏肉は、 経済の回復が進むロシアへ再び仕向けられるケースが増え、フィリピンをはじめと する東南アジア諸国への輸出は減退しつつあると言われる。しかし、業界関係者は 政府に対して、密輸を厳しく取り締まるとともに安価な鶏肉の輸入規制に取り組む よう要請している。 報告書は、同国のブロイラー業界が構造的に抱える問題として、@生産や価格の 動向を把握するための情報が不足しており、需給の変動に対する的確な対処が困難 であること、A飼料など国産の生産資材の品質が低く、割高な輸入品に頼らざるを 得ないこと、BWTO合意やアセアン自由貿易圏(AFTA)構想による自由化の 促進で国内産業の一層の衰退が進んでいることなどを挙げている。同連合会をはじ めとするブロイラー業界は、こうした状況の打開に向けて、アロヨ大統領に対して 輸入資材の関税率引き下げを要請するなど政府の支援に期待を寄せている。
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