ALIC/WEEKLY


混迷を深める亜国経済、農業への影響大きく


【ブエノスアイレス駐在員 浅木 仁志 1月17日発】公的債務の一時支払い
停止を宣言したアルゼンチン(亜国)は1月6日、新たな経済法案を採択し、
公定外国為替相場を1ドル=1.4ペソとする一方、観光客向け交換など一部に変
動相場制を併用する経済対策を発表した。91年以来続いてきた兌換(だかん)法
による1ドル=1ペソの固定為替相場は、一連の経済危機と昨年の大規模な暴動の
責任を取って辞職した前デ・ラ・ルア大統領と、兌換法の生みの親である前ドミ
ンゴ・カバロ経済大臣とともについえ去った。

 経済の混乱により昨年12月下旬から事実上機能していなかった銀行や両替所の
業務が1月11日からようやく開始されたが、変動相場制併用のため先安感の強い
ペソをドルに替える取引と、各種支払いに必要なペソ確保を図るためドルをペソ
に替える取引で、市中銀行や両替所は多くの市民でごった返した。一方、終わり
の見えない預金引き出し制限措置、ドル預金の強制的定期預金化及びペソ化を図
るためドル預金のペソへの強制的転換などにより国民の不満は高まり、地方州で
は暴動が相次ぎ、首都圏も各種の抗議行動で治安が悪化している。 

 こうした中、新たに政権に就いた正義党(PJ党)のエドゥアルド・デュアルデ
大統領は、通貨切り下げで輸出競争力がついた農業を国の基幹輸出産業と位置付
け、亜国農牧協会など農業4団体と協議し、従来は通貨切り下げに対応して実施
していた農産物への輸出税課税を今回は行わないこと、輸入資材は公定外国為替
相場で決済することも検討すると約束した。

 経済対策の中で10万ドル以下の借金は1ドル=1ペソでのペソ払いを認めたが、
銀行融資に対する土地担保など総額90億ドルとされる農業部門の借金に対し、
1ドル=1ペソでペソ払いする借金の上限(10万ドル)を引上げること、有利な条件
で借換融資を措置することなどが今後議論されそうである。

 新政権下の機構改革で農牧水産食糧庁は新設の生産省に属し、同庁長官には元サ
ンタフェ州農業生産長官のミゲル・パウロン氏が任命された。パウロン新長官が初
めに取り組むべき課題は、穀物取引の正常化と生鮮牛肉のEU市場解禁である。

 輸出競争力のついた農産物の中で、今年豊作が予想される小麦は今後ブラジル
(伯国)へ輸出量を増やし、2002年上半期の亜国産農産物の伯国への輸出額は前年
期比で25%増という民間予測もある。しかし、外国為替取引の混乱や変動相場制へ
の完全移行の思惑から穀物相場が立たず、穀物取引所は閉鎖に追いこまれている。
また、伯国は既に新しい輸入先を模索している噂もあり、穀物関係者は一度失った
場回復は難しいと政府の朝令暮改の経済対策を非常に懸念している。

 明るいニュースとしては、EUの常設獣医委員会が、亜国産生鮮牛肉の輸入を
2月1日から認めたことである。今回の解禁は地域主義を取り入れているため、
口蹄疫の活性が消えてから60日を経ていない2州からの輸出は当面除外されるこ
とになる。

 利益の多いヒルトン枠を1年近く輸出できなかった食肉処理加工業者にとって
は、通貨切り下げとあいまって、希望の持てる話だが、ヒルトン枠の規格に合っ
た高級牛肉を短期間(2001年度のヒルトン枠の輸出対象期間は6月30日まで)で
手当てできるかどうか、問題は残されている。


元のページに戻る