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【シンガポール 宮本 敏行 7月4日発】フィリピン農業省は6月28日、7月か ら行うとしていた北部のルソン島から他の地域への偶蹄類家畜の食肉およびその加 工品の移動禁止措置の施行を延期すると発表した。 フィリピンの中・南部地域では口蹄疫の清浄化が相次いで実現しており、国際獣 疫事務局 (OIE)は今年5月、昨年5月の南部のミンダナオ島に続いて、中部 のビサヤ諸島、パラワン島およびマスバテ島を口蹄疫のワクチン非接種清浄化地域 として認定した。これにより、同国における口蹄疫の清浄化が大きく進展したこと から、農業省畜産局は、中・南部地域の口蹄疫清浄化維持を図るため、口蹄疫が常 在するルソン島からの偶蹄類家畜の食肉およびその加工品を他地域へ移動すること を禁じた省令第5号を策定した。一方、官民一体となった永年の努力にもかかわら ず、ルソン島における清浄化は相当遅れており、もはやワクチンの使用なしには口 蹄疫の撲滅は望めないといわれている。ルソン島では、マニラ首都圏に接するバラ カン県だけでも、今年1〜6月の期間に300件に及ぶ口蹄疫の発生が確認され、豚 を中心とした1万6,600頭の家畜にワクチンが接種されている。 イスラム教徒の割合が極めて少ないフィリピンでは、豚肉は国民に最も親しまれ る食肉であり、2000年の1人当たりの豚肉消費量は16.1kgで、マレーシア(6.9kg)、 タイ(5.0kg)、インドネシア(0.6kg)といった他のアセアン主要国と比較すると 格段に大きいものとなっている。2000年の豚の飼養頭数は1,076万頭で、96年と比 較すると19.2%の大幅な伸びを示しており、養豚業は、養鶏部門と並び同国畜産の 主要分野として安定的な成長が見込まれている。最大の消費地であるマニラ首都圏 を擁するルソン島には総飼養頭数の3割以上が分布していることから、同島は、余 剰豚肉などの他島への供給地としても重要な地域の一つとなっている。 同省令の施行が延期に至った背景には、フィリピン食肉加工協会をはじめとした 同国の中・南部地域に拠点を持つ食品業界の反発が大きく影響したとされている。 同協会は農業省畜産局に対し、ルソン島からの輸送が途絶えることにより中・南部 地域の食肉等が不足する事態を訴える陳情を重ねてきた。同協会は、ルソン島には ミートボールやベーコンなど食肉加工品の製造工場の多くが存在することから、同 島からの輸送が途絶えれば中・南部地域の消費者はそれらの食肉加工品を入手でき なくなるとしている。 また、食肉加工品の移動禁止措置は、近年、同国内でも成長が著しいマクドナル ドやジョリビーフーズをはじめとしたファストフード・チェーンの経営にも影響を 及ぼし、地域経済に大きな打撃を与えるのではないかとの懸念も広がっていた。今 回の延期を決定付けた要因の一つとして、中・南部地域に事業を展開するファスト フード業界が、農業省に対して激しく抵抗したことが指摘されている。 ルソン島では、豪州政府の援助によるワクチンの生産および普及が進められてい るものの、口蹄疫撲滅までの道程は険しい。政府が今回の延期の期限を明言してい ないため、業界の一部からは、中・南部地域でようやく実現した口蹄疫の撲滅の成 果が逆戻りする可能性を危惧する声も上がり始めている。
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