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【シンガポール 小林 誠 7月11日発】マレーシアの首都クアラルンプール近郊 のゲンティン国際会議場で7月4日、農業省獣医局とマレーシア畜産農家協会連合 (FLFAM)の共催によるアセアン自由貿易圏(AFTA)の発効に向けたセミ ナーが開催され、養豚農家、飼料会社関係者、開業獣医など206名が出席した。F LFAMは、昨年5月にもAFTA関連セミナーを開催しており、畜産農家など約 250名が参加したが、養豚関係者の出席はなかったため、来年1月以降の養豚産業の 行く末に危機感をつのらせており、今回の養豚に焦点を絞ったセミナーの開催とな った。 セミナーでは、@台湾の養豚はどのようにして口蹄疫から立ち直ったか、A台湾 の世界貿易機関(WTO)加盟が養豚産業に与えた影響と農家の対応、B豚の離乳 後多臓器性発育不良症候群(PMWS)、C養豚産業におけるWTOとAFTAの 影響と対策、D飼料産業におけるHACCP、Eマレーシアの養豚産業と市場開放 への対処、の6講演が行われた。台湾から講師を招聘したのは、97年の口蹄疫発生 により養豚産業が壊滅的な打撃を受け、2002年1月にWTO加盟国となって自由化 の波にさらされることとなった台湾の状況が、98年のウイルス性脳炎発生により最 大の輸出先であるシンガポール市場を失い、人への伝播の可能性から産業の国内立 地すら危ぶまれる状況に陥り、来年のAFTA施行を控えたマレーシアの状況と似 ていることによるものである。また、他の講演については、品質の向上と消費者の 信頼性確保が市場開放後の競争に勝ち残るキーワードであるとの観点から行われた。 マレーシアでは、豚および豚肉をタブーとするイスラム教が国教とされており、 ウイルス性脳炎の発生により100人を超える死者を出したこともあって、国内の養 豚産業に関する議論は国政上センシティブなものとなっている。今回のセミナーで も、舞台裏では、民間の研究機関からの講師に対し、獣医局幹部が激しい口調で養 豚をめぐる文化的・政策的内容に関する発言を禁じる場面があり、同国における養 豚産業の困難さを感じさせるものとなっていた。 AFTAは、アセアン加盟10カ国、人口約5億1千万人の市場について、各国共 通の主食である米や各国ごとのセンシティブ品目(マレーシアの場合、自動車)を 除き域内関税を5%未満へ引き下げる共通実効特恵関税の導入や数量制限・非関税 障壁の撤廃により域内貿易の活性化を図り、域内産業の国際競争力強化を図ること を目的としたもので、マレーシアを含む先発加盟6ヵ国は2003年1月1日からの実 施が義務付けられている。 一般に中国系住民は、冷蔵・冷凍肉を好まないため、マレーシアの豚肉は、主に ベトナムから昨年実績で千トン超の輸入がある冷凍丸焼き用子豚を除き、温と体で の流通が主流となっている。このため、輸入品についても一部スーパーでの販売を 除き、生体で輸入したものを国内でと畜・解体することが前提となっている。一方、 政府は輸入先を口蹄疫清浄国に限定するなど、厳格な衛生条件を設定して、同国へ の豚の生体輸出が可能なタイからの流入を阻止している。それにより、間接的に国 内産業が保護されるかたちとなっている。 マレーシア産豚肉は、一部に抗菌剤のニトロフランなど使用禁止薬剤の残留が検 出されるなど、品質的に問題が残されているばかりでなく、価格的にも域内では高 い水準にある。非関税障壁が撤廃される来年1月以降、生体輸出の可能なタイ産豚 肉との競争に勝てないとされており、早急な品質向上と生産コスト削減が求められ ている。
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