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【ワシントン 渡辺 裕一郎 7月18日発】米国では、新農業法(5月13日成立) には最終的に盛り込まれなかった「食肉パッカーによる家畜の所有禁止」を求める 声が、連邦上院議会を中心に今なおくすぶっている。 これは、ジョンソン(民主・サウスダコタ州)、グラスリー(共和・アイオワ州) ら上院議員の提案による「と畜の15日以上前から家畜を所有、飼養または管理して いるパッカーを違法とする」という、上院の新農業法案にのみ規定されていた条項 であった。しかし、両院協議会では、下院議員からの支持がほとんど得られず、結 果的に、同じく上院法案にのみ規定されていた食肉などの原産地表示義務化に関す る条項を認める代わりに、パッカー所有禁止条項を削除することで妥結が図られた という経緯がある。この妥結には、これら2つの条項のいずれにも反対する、パッ カーの会員団体・アメリカ食肉協会(AMI)と、企業的経営体をも会員とする全国 肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)や全国豚肉生産者協議会(NPPC)という全米最大の 専門生産者団体による強硬な反対行動(ロビイング)が背景にあり、特に、「パッ カー所有禁止条項が残っていた場合、新農業法は成立していなかったであろう」と いう声もあるほど、本件に関する対立は深刻だったのである。 (参考:NCBAとNPPCの共同委託調査の結果(3月18日公表)によれば、本条項によ って生産者やパッカーなどが被る損失額は、最大で109億ドル(牛肉35億ドル、豚肉 74億ドル)に上ると見積もられている。) このように本件は、政治的な駆け引きによっていったんは決着を見たものの、新 農業法の成立から2ヵ月が過ぎた7月16日、「不公平な取引慣行から農家を守って いくためのステップである」として、その決着に不満を持つハーキン上院農業委員 長(民主・アイオワ州)の主導により、本件に関する同農業委員会の公聴会が開催 された。ハーキン委員長は、開会に当たって、@パッカーによる家畜の所有禁止は、 市場の占有や操作によるパッカーの影響力を制限し、畜産農家に対して高い生体価 格をもたらす結果となる、A地元アイオワ州は20年以上も前から、この禁止措置を 先取りして実施しているが(注)、同州は今でも全米第1位の生産を誇り、パッキ ング・プラントの数も最も多いことから、パッカーに悪影響は及ばないと述べると ともに、B米農務省(USDA)に対して、反競争的な取引を規制する「パッカー・ス トックヤード法」のさらなる厳格な運用を求めた (注:世界最大の豚肉の垂直的統合企業であるスミスフィールド・フーズ社が先ご ろ、「パッカーによる畜産経営への融資をも禁止するアイオワ州の規制強化の動き は違憲である」とする訴えを起こしたのに対し、ハーキン委員長は「(こうした動 きもあるからこそ)全国的な法制化が必要である」と発言。) 公聴会では、「今後もさらに中立的、包括的な調査が必要である」とするUSD Aに対し、ハーキン委員長をはじめとする本条項の賛成者からは、「もう調査は必 要ない。今は、パッカー所有禁止を実行する時である」との批判が寄せられた。当 日は、ファーム・ビューローや、家族経営を重視するファーマーズ・ユニオン、ア イオワ豚肉生産者協会、R−CALF USA(肉牛生産者団体)などが本条項へ の賛成を表明したのに対し、反対または慎重な立場であったのはAMIや NCB Aなど少数であったとされ、賛成派が久しぶりに怪気炎を上げる場となったようだ。 また、公聴会の前日(15日)には、グラスリー上院議員から、本条項の実現に向 けた取り組みと並行して、「パッカーがと畜する家畜の25%以上は一般市場から購 入しなければならない」とする法案を別途提出する予定であると発表されるなど、 再び議論が活発化し始めている。
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