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連邦レベルでの慢性消耗性疾患(CWD)対策を強化する米国


【ワシントン 渡辺 裕一郎 5月30日発】北米のシカやエルク(オオジカ)
に見られる慢性消耗性疾患(Chronic Wasting Disease:CWD)とは、牛海
綿状脳症(BSE)や羊・山羊のスクレイピーに代表される伝達性海綿状脳症
(TSE)の一つであり、1967年にコロラド州北部の保護施設にいたミュール
ジカにおいて確認されたのが最初の患畜であるとされている。やはりその病原
体はプリオンであるとする説が最も一般的であるが、人間や他の動物に及ぼす
危険性については、現在のところ明らかにはなっていない。

 CWDの発症は3〜4才の成畜が多く、発症後は次第に体重が減退するとと
もに、異常な行動を示すのが一般的であるとされ、数週間から数カ月の後に死
に至る。ただし、BSEについてはBSEに汚染された牛の危険部位由来の飼
料がその伝達源として最も有力視されているのに対し、CWDについては、母
子間というより主に個体間で伝達される、という以外に具体的な伝達方法に関
する定まった見方はないのが現状である。

 80年代半ばには、コロラド州北東部やワイオミング州南東部の野生のシカや
エルクから、そして2001年5月にはこれら地域と接するネブラスカ州南西部の
野生のシカからもCWDの患畜が発見された。これら一帯では、CWDの特定
発生地域として集中的なサーベイランスが実施されるとともに、当該地域外へ
の移動禁止措置も講じられてきた。しかし、97年にはサウスダコタ州の農家で
飼養されているエルクからも初めてCWDが発見されたため、米農務省(US
DA)は各州政府などの協力による全国レベルでのサーベイランスに着手した。
これまでに、同州以外にも、ネブラスカ、コロラド、カンザス、オクラホマ、
モンタナの計6州の飼養エルクからCWDが確認されている。本年2月には、
ウィスコンシン州の野生シカでも見つかったため、現在のところCWDの発生
州は全米で8州を数えるに至っている(ちなみにカナダでも、サスカッチュワ
ンとアルバータの2州で見つかっている)。

 事態を重く見たUSDAは昨年9月、CWD撲滅プログラムをスタートさせ、
CWD発生農家におけるエルク群の殺処分、補償金の支払い、消毒などの対策
のため、これまでに1,480万ドル(約18億円:1ドル=124円)の予算措置を講
じている。本年4月には、野生での発生が見られるコロラド州の一部地域内の
飼育エルクについてのUSDAによる買い上げ措置の実施も決定され、15農家
で飼われている約1千頭に対し、評価額の95%相当の補償金が支払われる見込
みとなっている(注:以上のような補償金支払プログラムへの参加は任意であ
るが、関係農家は州政府による検疫下に置かれ、移動が制限される)。また、
2003年度の政府予算案でも、720万ドル(約9億円)の各種対策費が計上されて
いる。

 こうした中で、CWD発生州選出の議員の間では、関係省庁の連携によるCW
Dの原因究明・まん延防止・監視、州政府の取組み支援などを求める声が高まっ
ている。5月16日、USDAはこれを受けて、米内務省(DOI)との作業グル
ープを立ち上げるとともに、近々、農家で飼養されているすべての個体の州間移
動に関する規制(事前登録制)を導入する意向であることも明らかにした。一方、
5月22日には連邦議会においても、こうした連邦政府の役割を明確化するための
法案が上記関係議員によって上下両院に提出されるなど、連邦レベルでのCWD
対策強化への動きが活発化し始めている。


(参考:報道によれば、北米には、肉や角などの販売を目的として約2,300戸の農
家で約160千頭のエルクが飼養されているとされる。2000年以降は、こうした飼養
エルクから259頭のCWDが見つかっており、また、98年以降に殺処分された個体は
4,432頭に上るという。)



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