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【シンガポール 宮本 敏行 6月6日発】タイの養豚産業は、政府主導による口 蹄疫などの疾病の清浄化が取り組まれる一方で、輸出を念頭に置いた生産が行われ るなど着実に成長を遂げている。全国養豚協会の発表によると、近年における同国 の豚飼養頭数や豚肉輸出数量は増加傾向で推移しており、鶏肉に次ぐ輸出畜産物と して今後のさらなる発展が期待されている。 全国養豚協会が公表した資料によると、タイには現在、30万戸の養豚農家が存在 し、2001年の豚飼養頭数は前年比3.6%増の870万頭で、2002年には900万頭に増加 すると予測されている。また、2001年の豚肉生産量は同3.6%増の65万3千トンで、 2002年の予測値も67万5千トンと同様に増加傾向で推移するとみられている。 一方、輸出の伸びはさらに目覚しく、2001年の豚肉およびその加工品の輸出量は、 前年の約2.1倍の1万3千トンと大幅に増加している。この内の8割近くが香港向 けであるが、香港では近年、相次ぐ鳥インフルエンザの発生で住民の鶏肉離れに拍 車がかかり、食肉需要の多くが、中華系住民の最も好む豚肉へよりシフトしている と言われる。これに伴い、豚肉の輸入も増加傾向にあることから、同協会は、今後、 香港への豚肉輸出の増加は一層見込めるとしており、2002年の輸出量は前年比10.2 %増の1万4千トンと試算している。なお、香港向けに比べると少ないものの、97 〜98年のウィルス性脳炎のまん延で養豚産業が壊滅的な打撃を被ったマレーシアな どにも輸出が始まっており、今後の順調な輸出増が期待されている。 また、香港に匹敵する輸出市場として、タイが注目しているのはシンガポールで ある。同国は、宗教上の制約がない上に購買力が高く、中華系住民の割合が8割近 くに及ぶため、タイにとっては有望な輸出先として期待されている。しかし、現在 のところ、シンガポールの豚肉の輸入先は、隣国マレーシアにおける豚のウィルス 性脳炎の発生などを受け、豪州やニュージーランド、欧州の数ヵ国などに限られて いる。 輸入規制の厳しいシンガポール市場へ参入するため、農業協同組合省はシンガポ ールの農産物獣医庁(AVA)と協議を続けてきた。今年3月以降はAVAの係官 がタイを訪問し、生産現場や主要なと畜加工場などの視察を続けているが、@タイ の輸出向けの豚および豚肉は、農業協同組合省畜産開発局が養豚場およびと畜加工 場を認定した上で有害薬物の残留検査などを行っており、政府自らが豚肉の品質や 安全性を担保していること、A現在、シンガポールが最も多く輸入しているのは豪 州産の冷蔵豚肉であるが、タイからの豚肉輸入が実現すれば、輸送コストを大幅に 削減できるメリットが大きいことなどから、比較的早期に同国への輸出が実現する と見る向きも多い。 一方、農業協同組合省は先頃、輸出の拡大と国内消費の増加を図るためオーガニ ック豚プロジェクトを全国的に展開する計画を策定した。その手始めとして東北部 のウドンタニ県に普及センターを建設し、今年中にはオーガニック豚を生産する養 豚農家の割合を全体の2割に引き上げたいとしている。 6月4日には、消費者保護局による「生産地から食卓まで」と題した豚肉の安全 管理セミナーがバンコク市で開催され、400人を超える養豚業者や豚肉流通業者、 関係省庁の代表者が参集した。ここで定められた基準を期限内に履行できない者に は罰則が課せられるなど、養豚産業の発展の前提となる安全性向上に対する意識の 改革を促す試みも始まっている。
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