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【シンガポール 宮本 敏行 2002年6月20日発】インドネシアの養鶏業界は近年、 生産過剰や不正輸入の増加などでブロイラー価格が下落し、経営危機に陥る農家が 相次いだものの、大企業の活躍を中心とする輸出の増大などでようやく不振から脱 する兆しを見せている。しかし、その一方で、今年4月に西ジャワ州政府が新たに 導入した家きん税をめぐり、苦悩する小規模農家の姿が浮き彫りとなっている。 インドネシア養鶏業者協会(PPUI)はこのほど、西ジャワ州政府に対し、新たな 家きん税の使途が不明瞭であるとして、PPUIおよびその傘下の養鶏農家はその納付 を拒否すると表明した。この家きん税は、鶏1羽当たり10〜50ルピア(約0.2〜0.8 円:100ルピア=1.6円)を徴収するもので、PPUIは、チャロン・ポカパン社などの 大手インテグレーターとの競争を常に強いられる小規模農家には、新たな税金を納 める余裕はないと反発を強めている。また、こうした養鶏農家は、毎週、同州にお けるブロイラーの需要の7割に相当する1,900万羽を供給していることから、州政府 は養鶏産業の底辺を支える小規模農家の窮状にもっと目を向けるべきとしている。 近年、同国の養鶏業界では、大手インテグレーターによる市場寡占化の進行が指 摘されている。一定規模のインテグレーターは、仲買人を通した製品の流通を義務 付けられているものの、最近は直接に末端市場であるウェット・マーケット(常温 流通による伝統的な対面販売市場)で独自の価格を形成し始めており、小規模農家 の経営を圧迫しているとされる。また、こうした大企業は、初生ひなの供給量を公 開しないことから、小規模農家が市場動向を把握するための情報が不足しており、 調整役となるべき政府の施策に不満が集まっていた。 そうした状況の中で、PPUIは、経営強化のためのトレーニングや業界の保護政策、 重要な情報の提供などへ活用されるものであれば新税の導入に異議を唱えることは しないが、大企業と対峙せざるを得ない小規模農家を省みない政府への協力はでき ないとしている。次第に激しさを増す不満の声に対し、当初は強硬な姿勢をとって いた同州政府も、今後しばらくは現場の声に耳を傾けていくとの柔軟な態度を見せ 始めているようだ。 しかし、小規模農家の経営を圧迫する要因はこれだけではない。同国政府は昨年 5月、国内の養鶏産業を保護するため、急増する米国産鶏もも肉の輸入をイスラム 教徒が口にすることができるハラル表示が欠落していることを名目に禁止した。し かし、度重なる米国の輸入再開の要請を受けた同国政府は、先頃、ハラル表示を行 えば鶏もも肉の輸入を再開することは可能であるとの声明を出すに至っている。米 国による同表示の実現性を探っているインドネシア食品飲料協会(GAPMMI)は、米 国の鶏肉業界にとってこの基準を満たすことは容易であることから、同表示義務が 輸入を抑制する切り札にはならないと提言している。全国養鶏業者協会(PPAN)は、 インドネシア政府が今後予想される米国産鶏もも肉の流入を抑制することができな ければ、西ジャワ州だけでも1万4千戸の養鶏農家の経営が破たんし、7万人の雇用 が失われると試算している。 PPANをはじめとした養鶏関係者は、急増する輸入を抜本的に食い止めるため、関 税率の引き上げを政府に対して働きかけてきたが、メガワティ大統領は6月11日、 遂に農産物や食品の関税率の引き上げを決定した。今後は、家きん税の見直しにも 期待が高まるものと思われる。
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