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【ワシントン 渡辺 裕一郎 2002年6月20日発】最近の肉牛価格の低迷を受け、 6月18日、全米最大の生産者団体である全国肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)と、家 族経営が中心の中小28団体によるグループはそれぞれ、連邦議会に対し、原因究明 のための調査要請を行った。 3月のカンザス州における口蹄疫誤報騒動によってシカゴ・マーカンタイル取引 所(CME)の生体牛価格が急落し、その後も下落が続いたのは既報のとおりである。 これについてNCBAの要請を受けて調査を開始した商品先物取引委員会(CFTC)は4 月下旬、インサイダー取引や価格操作の証拠はなく、生産の増大や輸出の減少など の様々な市場のファンダメンタルズが原因であると結論づけた。しかし、その後も 価格は低迷を続けていることから、今回、2つのグループが改めて調査要請に踏み 切ったのである。 まず、NCBAの要請であるが、これは上下両院の農業委員会と予算委員会のメンバ ー全員に対して行われた。その主張のポイントは、@近年、食肉パッカーの寡占化 や市場慣行の変化(生産者とパッカーなどが契約や統合によって結びつくいわゆる 垂直的調整の進展)によって取引に大きな変化が見られる中、生体牛価格の変動も 顕著になってきている、Aこうした価格の変動や低下の原因を究明するため、食肉 ・家きん肉産業全体を通じ、国際貿易の影響も含む広範な要因を考慮した市場分析 調査が米農務省(USDA)によって行われるよう資金を供給すること、Bその場合US DAは、複数のビジネススクール(経営学大学院)からなる中立的な独立組織と連携 を取ること、などである。特に、パッカーの寡占化に関し、全米4大牛肉パッカー のと畜シェアが80年代は40%未満であったのに対し、今日では80%を超えていると して、こうした寡占化の影響評価の重要性を指摘している。 一方、28団体のグループの方は、州や郡の肉牛生産者協会のほか、R‐CARF USA のような全国団体も含まれており、その要請先は、超党派の主要上院議員となって いる。これは、上院の農業委員会と司法委員会とが生体牛価格の低下原因を究明す るための包括的な共同調査を行うよう求めるものであり、この論拠としては、@今 年の4〜5月は、牛肉生産量が過去最高を記録した2000年の同時期に比べると、生 産量が少なく牛肉需要も伸びているなど市場のコンディションは良好で、小売価格 や卸売価格も当時を上回っている、Aしかし、肥育牛価格だけは100ポンド当たり 60ドル半ばと、当時の平均価格の72ドルに比べ10〜15%も下回っている、Bこれは、 いわゆる「とらわれの家畜(captive supply)」による影響や、卸売・小売サイド からのマーケットパワーの増大、そしてパッカーの寡占化の進展など、複数の要因 が働いているためであるとしている。 新農業法の検討過程では、食肉パッカーによる家畜の所有禁止措置と義務的な原 産地表示制度の導入について、NCBAは反対の立場をとっていたのに対し、R‐CARF USAをはじめとするその他の団体グループはいずれも支持するなど、これら2つの グループは見解を異にすることが多かった(新農業法は、最終的に、原産地表示制 度を採用する代わりに、パッカー所有禁止措置は廃案にするという結論で妥結)。 しかし、生体牛の価格低迷問題に関しては、やはり同じ生産者として、立場を同じ くしている。 こうした動きに対し、これまでのところ、ハーキン上院農業委員長(民主党・ア イオワ州)が調査の後押しをする旨を表明している。
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