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【シンガポール駐在員 宮本 敏行 3月7日発】マレーシア最大のファストフー ド会社であるKFCホールディングス(KFCH)社は2月26日、米国資本のトラ イコン社がシンガポールで展開するケンタッキー・フライドチキンなど3ブランド のファストフードチェーンを7千3百万シンガポール(S)ドル(約53億3千万円 :1Sドル=73円)で買収した。東南アジア地域では、近年、所得の向上に伴う食 生活の欧米化により、ファストフード店の進出が目覚しい。今回の国境をまたいだ 買収劇により、今後、当地域におけるファストフード業界の再編にも影響を与えそ うである。 今年1月に行われた入札には、KFCH社をはじめ、不動産業のエン・ワー社や レストラン・チェーンのABRホールディングス社など6社が応札したとされてい る。入札の結果、KFCH社は、ケンタッキー・フライドチキンを運営するケンタ ッキー・フライドチキン・マネジメントを5千5百万Sドル(約40億2千万円)、 ピザ・ハットおよびメキシコ風ファストフードのタコ・ベルを運営するピザ・ハッ トシンガポールを1千8百万Sドル(約13億1千万円)で取得することが決定した。 上記3ブランドのシンガポールにおける出店数の合計は93店舗で、ファストフード 業界の市場シェアは約3割を占める。KFCH社は、初期投資を大幅に抑えてシン ガポールのファストフード業界の上位に踊り出たこととなる。 KFCH社は今後の課題として、早急にシンガポール国内での流通ネットワーク に参入し、それを強化することで自らを東南アジアにおけるファストフード業界の トップに躍進させたいとしている。同社は先頃、2001年1〜9月の期間における経 営状況を公表した。それによると、売上高は7億9,900万リンギ(約279億7千万円 :1リンギ=35円)、純利益が3,500万リンギ(約12億3千万円)となっている。 株式売買に係る民間のコンサルタントによると、2002年の同社の純利益は、過去最 高を記録した2000年より26.4%増加して6,200万リンギ(約21億7千万円)に上る と試算している。 しかし、一方では、景気の後退が鮮明さを増しているシンガポールでの新たな事 業の展開を危ぶむ声も聞かれる。シンガポールは、97〜98年をピークとして東南ア ジア全域に及んだ経済危機の影響を政府主導の経済運営で巧みに回避してきたが、 近年の世界的な景気の低迷で輸出が大きく落ち込むなど経済の後退を余儀なくされ ている。2001年の国内総生産(GDP)成長率はマイナス2.0%となり、9.9%の 高度成長を示した2000年の状況から急激に減速している。また、今回買収した2社 の2000年第3四半期決算では、ケンタッキー・フライドチキン・マネジメントが11 8万Sドル(約8,600万円)の純利益を確保した反面、ピザ・ハットシンガポールは 71万Sドル(約5,200万円)の損失を計上しており、先行きは決して順風満帆とは 言えない状況にある。 これに対し、KFCH社のアブドラ副社長は、今回のシンガポール進出が成果を 上げるのに2〜3年を要するとしながらも、シンガポールの経済が回復に向かえば、 新たな事業もマレーシア国内と同様の成功が期待できるとの自信を見せている。し かし、不況の波が広がる中で、3ブランドの買収額は当初の予想を大きく下回った とされており、東南アジアの頂点を狙うKFCH社の試みの成否は、シンガポール 経済の当面の動向がカギになるものと思われる。
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