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食肉パッカーの家畜所有禁止条項の分析報告書を公表


【ワシントン駐在員 樋口 英俊 3月14日発】次期農業法案の大きな争点の一つ
とされる食肉パッカーによる家畜所有禁止条項に賛成する超党派の議員団は、両院
協議会での討議開始の前日である3月12日に記者会見を開き、同条項に関する経済
分析報告書を公表した。この条項は、ジョンソン上院議員(民主党・サウスダコタ
州)とグラスリー上院議員(共和党・アイオワ州)が共同提案したもので、食肉パ
ッカーがと畜の15日以上前から家畜を所有、飼養または管理することを違法とする
規定であるが、下院案には同様の条項は含まれていない。

 今回発表された報告書は、州立大学の農業経済学者および法律大学院の教授など、
計4人の専門家が作成したもので、現在の食肉パッカーによる家畜所有の現状・評
価、同条項に対する食肉パッカー業界の、@家畜生産者と食肉パッカー間でのリス
ク共有を図る出荷取り決めを利用できなくなる、A食肉パッカーが多額の投資を行
い、生産者と行ってきたブランド食肉生産に支障を来す、B垂直的調整の進んだ豚
肉パッカーがより重大な被害を被るといった反対理由に対する意見などから構成さ
れている。

 同報告書は、食肉パッカーの寡占化で家畜市場での支配力が強まっているとの見
方を示し、その例として、牛肉について、食肉パッカーが生産者に支払う価格と卸
売段階で販売する価格の開きが、大きくなっていることを挙げている。また、こう
した状況は、需給状況、他の食肉との競合などの要因を考慮しても、通常の競争条
件下では考えられないとし、食肉パッカーが市場支配力を背景に、価格競争を制限
していることなどによるものとしている。

 また、同報告書は、食肉パッカーによる家畜所有禁止条項の影響について、市場
にもたらす利益を考慮すれば、比較的大きなものではないと主張している。例えば、
同条項により、カナダなどへの産業流出が促されるとの意見に対しては、ネブラス
カ州、アイオワ州およびサウスダコタ州では、州レベルの規制によって、食肉パッ
カーによる家畜飼養が禁止されているが、これらの州では、食肉パッカーの処理頭
数に変化がないことを挙げて反論している。

 しかし、実際には、こうした規制により、サウスダコタ州にあるスミスフィール
ド・フーズ社の豚のと畜加工処理場では、同州から出荷されるものが20%に過ぎず、
20%はカナダから、残りは他の中西部諸州から出荷されているという。

 食肉パッカーの業界団体である米国食肉協会(AMI)は3月13日に発表した声
明の中で、「この報告書の内容は主要な農業経済学者の見解とは異なる。同条項に
ついて、主要な農業経済学者が反対しているということは、それ自体が十分調査や
議論を経て作成されたものではないということを示している」と述べ、米農務省
(USDA)による事前の詳細な調査を行うことを支持するとの見解を示した。ま
た、AMIは3月12日、同条項への反対活動を強めるため、両党の元下院議員2名
をロビイストとして雇用することを明らかにし、異例とも言える強力な取り組み体
制を整えた。

 同条項には、AMIのほか、生産者団体である全米肉牛生産者・牛肉協会(NC
BA)、全米豚肉生産者協議会(NPPC)なども反対の立場を取っており、結果
として、同条項は削除されるか、効力のない内容への変更、またはUSDAへの調
査要請で合意されるとの見方は依然として強い。

 なお、次期農業法案については、両院協議会での審議が3月13日に開始されたが、
相違点が多く、今春の作付けに間に合わせるための期限と見られる23日からの休会
以前の議会通過は微妙なところとなっている。 


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