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【ブラッセル駐在員 山田 理 3月20日発】EU委員会は3月18日、2004年にE Uへの加盟が見込まれている中東欧8ヵ国を中心に、EU加盟による加盟候補国の 農業への影響に関するレポートを公表した。 このレポートでは、@EUに加盟しない、A直接支払いを除く共通農業政策(C AP)を適用(生産枠の設定は近年の実績を勘案)、B100%水準の直接支払いを 含むCAPを適用(生産枠の設定はAと同様)、C直接支払いを含むCAPを適用 (直接支払いおよび生産枠の設定は各加盟候補国が求める水準)、といった4つの 異なった政策的シナリオを想定し、2002年から2007年での加盟候補国の農産物市場 および農業収入への影響を考察している。その結論の概要は、以下のとおりである。 1. EUに加盟しない場合(シナリオ@)、中東欧の農業者の将来展望は厳しい ・ 中東欧8ヵ国の農業生産額は、穀物部門でわずかに増加するものの、畜産分 門では引き続き減少する。 ・ 2007年の農業収入は、2002年と比較して4%減少する。 2. 低い水準の直接支払いは、中東欧諸国すべてが所得増加効果を得ることを確実 にする ・ EUに加盟した場合、直接支払いが全く適用されなくとも(シナリオA)、 2007年の農業収入は、2002年と比較して30%増加する。 ・ 100%水準の直接支払い(シナリオB)は、直接支払いを除くCAP適用 (シナリオA)に比較して3倍の所得増加効果があり、各加盟候補国が求める 水準を適用した場合(シナリオC)には、4倍の所得増加効果がある。 3. 100%水準の直接支払いは、労働構造改善のための刺激とはならず、社会的な ひずみや不平等を生み出す ・ 20ヘクタールの農地を所有する平均的な農家について見ると、シナリオ@で は平均所得の1.2倍、シナリオAで1.8倍、シナリオBで2.6倍、シナリオCで は実に約3.0倍もの所得を得ることになる。 ・ このような高水準の直接支払いの下では、労働力の多くが他産業に流出せず 農業に残留する結果となる。また、多くの国で社会的なひずみや不平等を生み 出す。 4. 中東欧諸国の農業者は、拡大EUの単一市場の中でも成長可能で競争力を持て る ・ 加盟後、直接支払いがなくとも、穀物生産の増加が込まれ、牛肉及び乳製品 でも加盟の効果はプラスに働く。 ・ 急速な投資拡大を受けての鶏肉生産の増加は、新たな市場における需要に合 致するであろう。 ・ 相対的に競争の激しい豚肉生産のみが減少すると見られるが、精力的な肉豚 生産者の大半は、生産の効率化による生産拡大が可能であろう。 ・ (EU拡大による)単一市場の統合は、中東欧諸国での穀物生産、EU既加 盟国での畜産物生産といったある種の専業化への進展を刺激するだろう。 5. 中東欧諸国のEU加盟は、主要農産物の需給バランスの不均衡を生み出さない ・ ≪穀物≫小麦の余剰は世界市場においてEU産小麦が競争力を持つため、重 大な問題とはならない。トウモロコシの余剰は、既存の加盟国によって、全量 吸収できる。ライ麦およびその他の穀物(主にえん麦)に関してのみ、国際市 場での販売に懸念がある。 ・ ≪畜産≫消費者のし好に大きな変化が無ければ、拡大EUでも牛肉市場を管 理することは可能である。近年の実績を基に生産枠が設定されれば、乳製品市 場においても、大きな混乱は見られないであろう。 EU委員会のフィシュラー委員(農業・農村開発・漁業担当)は、「(加盟直後 からの)100%の直接支払いは、ハンガリーやチェコの平均的な農家が、突然、平 均所得の2倍以上を受け取るような事態の発生につながる。小規模農家の多いこれ らの国において、構造改革を阻害し、社会的なひずみや不平等を生み出す」と述べ、 EU委員会が先に提案した直接支払いの段階的な増額について、その妥当性を改め て強調した。
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