ALIC/WEEKLY


家畜の輸入禁止措置に輸入業者が反発(マレーシア)


【シンガポール駐在員 宮本 敏行 3月21日発】マレーシア農業省は、家畜疾病
防除の観点から、3月8日以降におけるすべての家畜の輸入を一時的に禁止する措
置を講じた。これに対し、生体牛などの輸入に携わる家畜輸入業者グループは、現
在輸送中の家畜に係る損失が全く考慮されていないなど、今後の経営が破たんする
危険性があるとして、同省にその再考を強く求めている。

 今回の措置は、主に口蹄疫の侵入阻止を念頭にとられたものであり、9日に輸入
業者をはじめとした畜産関係者に公示された。この措置は、すでに売買契約が成立
し、輸出港に係留されている家畜はもとより、現在輸送中の家畜にも適用される極
めて厳しいものとなっている。また、同時に、過去3年間の輸入申請書等を精査し、
これまでに国内で確認された口蹄疫などの原因となった輸送経路を洗い出す作業も
行うとしている。この輸入禁止規則に違反した輸入業者は、5千リンギ(約17万5
千円:1リンギ=35円)の罰金または懲役2年、あるいはその両方が科せられると
しているが、先に政府間の輸出入協定が締結されたミャンマー産の家畜については、
その禁止対象から除外されている。

 当措置の発表に先立つ3月4〜9日、マレーシアのペナン島で国際獣疫事務局
(OIE)の第8回アセアン地域分科委員会が開催された。これに出席したエフェ
ンディ農業大臣は、隣接するタイおよびミャンマーと協同歩調をとり、2007年まで
の5年間で3ヵ国内の口蹄疫を撲滅する計画が進行中であることを明らかにした。
同大臣によると、ボルネオ島北部に位置する東マレーシア地域(サバ州およびサラ
ワク州)はすでに口蹄疫の撲滅宣言を行っており、近隣諸国との農産物貿易を促進
していく上で、国内だけではなくアセアン全域での口蹄疫撲滅を図る必要があると
している。今回の輸入禁止措置は同委員会の閉会後直ちに出されており、エフェン
ディ農業大臣が掲げる口蹄疫撲滅施策の第一弾に位置付けられるものと思われる。

 一方、唐突に輸入禁止の事実を突きつけられた家畜輸入業者は、同措置の発効が
その公示とほぼ同時期であったとして当惑を隠せないでいる。現在も多くの生体牛
などが輸送の途上にあり、そうした在庫の整理のための猶予期間が与えられなかっ
たことが農業省への不満をかき立てる結果となった。家畜輸入業者で作るグループ
は3月12日、タイとの間で売買が成立した約1,400頭の生体牛に係る損失は170万リ
ンギ(約6千万円)に上るとして、農業省に対し同措置の再考を強く求めている。
また、豪州から700頭の生体牛を輸送中の別グループは、もし、豪州へ牛を返却せ
ざるを得ない場合には、輸送中に要した飼料と併せて莫大な損失を計上することに
なると訴えている。

 また、輸入禁止措置の公示とともに、農業省獣医局の下に疾病防除のための監視
機関が置かれることも発表されている。今回の措置が解除された後も、輸入業者は
同監視機関から衛生証明書など新たな書類の提出を義務付けられることになってお
り、このことも政府に対して不信感を抱かせる原因の一つになっているものと思わ
れる。

 輸入業者のこうした強い抗議に対して、農業省は今のところコメントを避けてい
るが、同省が打ち出した今回の措置は、口蹄疫撲滅の第一歩として強硬な手段を用
いた例と言え、同国のこの問題の解決に向けた意気込みがうかがえるものとなって
いる。口蹄疫撲滅は、東南アジア各国の畜産に携わる人々の悲願であるだけに、20
07年の目標に向けて、今後も厳しい施策が続くものと思われる。


元のページに戻る