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【シンガポール駐在員 小林 誠 11月7日発】 ベトナム農業・農村開発省畜産研究 所は、2010年までの食肉および鶏卵の生産目標を公表した。同国政府は、農家の所 得向上対策として、2001年10月、酪農を国家計画の最重要課題の1つとし、酪農振 興国家計画を開始しているが(畜産の情報(海外編)10月号参照)、酪農以外の分 野についてはプライオリティーが低くなっていた。今回の目標公表は、ほとんどの 農家が豚を中心とした兼業を営んでいる同国の現状にかんがみ、酪農以外の分野に も行政の支援が必要であることを強調したものとなっており、食肉、鶏の消費量な どについても目標に設定されている。今回は目標飼養頭羽数を公表することにより、 農家の増産意欲を高めるとともに、行政に対して農家への支援や飼料分野の強化の 必要性をアピールするものとなっている。 同国は、人口約8千万人のうち、約8割が農村部に居住し、農村部人口のうち約7 割は農業を唯一の収入源にしている。近年、農村部と都市部における住民の所得格 差は、世帯当たりの月収ベースで 3倍以上に達するほど急速に拡大しており、政府 は早急な対策を迫られている。所得格差拡大の要因には、主作物である米の価格低 迷と豚肉の価格下落などが挙げられている。 ベトナムには、2001年末現在、水牛282万頭、牛(乳牛を含む)390万頭、豚2,177 万頭、鶏2億1,600万羽が飼養されており、水牛と牛が微増から減少傾向であるの に対し、豚と鶏は過去5年間順調に増加している。2001年の豚の頭数は、97年と比 較すると 430万頭、率にして 約23%の増加、同じく鶏の羽数は、5,540万羽、率に して34%の大幅な増加となっている。今回の発表では、2010年の目標を牛 460万頭 (対2001年比18%増)、豚3,000万頭(同38%増)、鶏3億5,000万羽(同62%増) としている。 同国の年間1人当たりの食肉消費量は、29.0キログラムであり、このうち約77% に相当する23.5キログラムが豚肉となっており、鶏肉の3.5キログラム、牛肉・水 牛肉の1.7キログラム、山羊肉その他の 0.3キログラムとなっている。鶏卵の消費 量は、年間1人当たり46個となっており、マレーシアの同246個、タイの同132個を 大幅に下回っている。今回の目標では、食肉消費量を40キログラム、鶏卵消費量を 75個としている。 同国には、現在、飼料会社が 136社あるが、飼料自給率は国内需要の7割程度と なっており、増頭羽には、自給率の向上も必要とされている。飼料については、C Pベトナム社、プロコンコ社といった外資系の大手が圧倒的シェアを誇っている。 しかし、国立畜産公社傘下の飼料公社のように、職員の日本での研修成果を基に して「フジヤマ」ブランドでの販売攻勢をかけている例もあり、地元資本のシェア 拡大の対する期待も大きい。 ベトナムの豚肉は、赤肉割合が国際的な取引基準とされている53〜57%を下回る ものが大半であり、来年1月に行われるアセアン自由貿易圏(AFTA)の先行5 ヵ国における完全実施を控え、輸出市場獲得のためには増頭による輸出余力の拡大 だけではなく、品質の改善も必要とされている。同国は、アセアン諸国中最大の豚 飼養頭数を有しており、豚肉は最も重要な食肉であることから、養豚をないがしろ にしては農村振興をなし得ない面がある。今回の目標公表は、畜産政策の軌道修正 の表れとも見ることができ、今後の推移が注目される。
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