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【シンガポール駐在員 宮本 敏行 11月14日発】 豪州がフィリピン産果実(バ ナナおよびパイナップル)の輸入制限措置を継続する中で、フィリピン農業省のス ポークスマンはこのほど、同国の大手乳業企業であるネスレ・フィリピン社および アラスカ・ミルク社が、乳製品原料の大部分を豪州に依存する戦略を改め、今後は 輸入先を多角化して行く方針を固めたと発表した。同スポークスマンによると、こ のことについては、政府および同 2社のトップとの間で非公式に行われた会談でコ ンセンサスが得られたとされている。しかし、アラスカ・ミルク社は、同社が脱脂 粉乳などの乳製品の輸入先を多角化する計画は以前からの懸案であったとして、方 針転換への農業省の関与を否定している。今回の政府発表の裏には、同国の乳製品 市場の99%を占める両社の同意を得ることにより、実質的に豪州産乳製品の輸入を 規制する意図があるものとみられている。 従来、フィリピン政府は、対抗措置として、豪州からの生体牛の輸入規制を行っ てきた。しかし、フィリピンでは近年、牛肉消費が増加傾向にあり、肉牛産業界か ら当規制の強い撤廃要求が相次いだため、政府は2001年までにこれを段階的に撤廃 した。しかし、豪州政府から果実の輸入解禁のめどが一向に示されないことから、 同じく豪州の重要な輸出品目である乳製品へ、輸入規制のターゲットを定め直す必 要に迫られたものと思われる。 これに対して、豪州の酪農・乳業関係者は、国内の果実産業の保護と引き換えに 乳製品の輸出が犠牲になるのではないかと危機感を募らせているといわれている。 豪州酪農庁(ADC)は、豪州のフィリピンへの乳製品輸出額は年間3億6,400万ド ル(約444億円:1ドル=122円)であるのに対し、バナナ産業が稼ぎ出すのが3億 2,100万ドル(約392億円)であることを挙げ、豪州政府に対し、フィリピン産果実 の輸入解禁を早急に行うべきであると進言したと伝えられている。 一方、フィリピン農業省は、フィリピンの大手乳業企業2社が、既にニュージー ランドからの乳製品の調達に着手したことを公表するとともに、インドやアルゼン チン、EU、米国などからも乳製品輸出の打診を受けていることを明らかにしてい る。これと同時に、ADCの見解を引用して豪州の酪農・乳業界と果実業界との足 並みの乱れを指摘するなど、豪州政府をけん制する構えを緩めていない。 なお、フィリピン酪農庁(NDA)は先頃、乳製品原料のほとんどを輸入に依存 する状況を打開するためとして、生乳の自給率を2007年までに5%へ引き上げるこ とを提言した。これに伴い、各乳業企業はNDAに対して、将来的には国産生乳の 使用割合を拡大していくことに同意しており、このことも、豪州の酪農・乳業界が フィリピンへの乳製品の輸出の先行きに懸念を抱く一因になっているものと思われ る。 フィリピン農業省は、豪州がフィリピン産果実の輸入認可をさらに先送りした場 合の追加対策として、生体牛の再度の輸入規制やターゲットを野菜の分野にまで拡 大する可能性を匂わせている。フィリピンと豪州の農産物貿易をめぐる対立は新た な局面を迎えようとしている。
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