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ブラジル次期政権、貧困救済策を優先課題に


【ブエノスアイレス駐在員 玉井 明雄 11月20日発】ブラジルでは10月27日、大統
領選挙の決戦投票が行われ、野党労働党のルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ
名誉党首が当選した。左派政権の誕生で現行の経済政策が変更されるとの懸念
もある中、ルラ次期政権は、同国の経済の安定を脅かすことなく、社会政策の
1つとして「飢餓撲滅計画」と称した貧困救済策を優先課題とする方針を明ら
かにしている。

 同政権は、その政策方針をまとめた「政府計画」の中で、「ブラジルは、大
きな農業生産の潜在能力を持ち、大量の食料を世界に供給しているが、その一
方で、国内では満足に食料も買えず、貧困状態にある者が多数を占める」とし、
貧困救済策の重要性を訴えている。

 この「政府計画」の中で、同政権がその貧困救済策を「飢餓撲滅計画」と称
したことは、国内外で反響を呼んでいる。また、「飢餓撲滅計画」は、農工商
業全般に関わる社会政策の1つであるが、今後の同政権による農業政策と密接
に関連する計画としても注目される。

 同政権によると、ブラジルで飢餓を発生させる問題点について、富が一部に
集中する社会構造、失業率の増加による家族収入の低下、社会保障制度の不備
などを挙げている。

 また、「飢餓撲滅計画」における中長期的な課題として、年率4%以上の経
済成長による雇用の創出、農地改革による農村への定着率の増加、食料生産の
増加、および家族農業への支援、地域および社会格差の是正、州や市が行う貧
困救済策への支援などがあるとしている。

 また、同計画における緊急措置として、貧困家庭を対象とした食料品クーポ
ンの配布、公立学校の給食の充実などを挙げている。

 ルラ次期政権の「政府計画」によると、ブラジルで飢餓に陥る可能性のある
家族数は約1,000万戸と推定されている。一家族4人として、同計画の対象人
数を計算すると、全人口の約4分の1に相当する約4,000万人と膨大な数に上
る。しかし、経済調査院(IPEA)の試算によると、同計画の予算総額は、
約210億レアル(約7,350億円:1レアル=約35円)ドルで、これは国内総生産
(GDP)の2%にも満たないとしている。

 ブラジル地理統計院(IBGE)による同国の農村経済の動向を見ると、2001
年における10歳以上の農村労働人口は、99年比で 12.3%減の約 1,553万人と
なった。つまり、この3年間で、約 218万人が減少したことになるが、IBG
Eでは、この減少の最大の要因として、3年以上にわたって続いた北東部にお
ける長期乾燥の影響で農村労働者が都市部へ流出したことを挙げている。2001
年における北東部の農村労働人口は約 746万人と全体の半分弱を占め最大であ
るが、99年比では約 107万人の減少となった。

 「飢餓撲滅計画」は、乾燥の被害が続くと食料の自給も困難となる北東部の小
農の救済対策でもある。北東部ペルナンブコ州出身のルラ次期大統領が掲げる 
同計画が今後、ブラジルの農村経済にどのような影響を与えるか注目されると
ころである。

   

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