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米豪FTA交渉開始に対する米国農業団体の反応


【ワシントン駐在員 渡辺 裕一郎 11月21日発】  このたび米国・豪州間の自由
貿易協定(FTA)締結に向けた交渉の開始が両国政府間で合意されたことについ
て、米国の農業団体の反応は、好意的な見方と、真っ向から反対するものとに分か
れている。この構図を見ると、ともに農産物輸出大国として名をはせる両国であっ
ても、直接一対一で勝負をすれば、作目によって勝ち負けがあること、すなわち、
どの米国産農産物が豪州産よりも国際競争力で劣るのか(裏を返せば、米国産より
も競争力に優れた豪州産農産物はどれか)が一目で分かる。

 交渉開始が合意された前日(当地11月12日)の日付で、米国の農業団体からゼー
リック米通商代表部(USTR)代表にあてた2種類のレターがある。まず、「交
渉開始を受け入れる」というレターを連名で出したのは、全米最大の農業団体で大
規模経営を主な会員とするファーム・ビューロー(AFBF)のほか、飼料穀物、
大豆、穀実用ソルガム、豚肉、カノーラ、鶏肉、鶏卵、トウモロコシ(精糖、精油)
に関連する9つの生産者・業界団体である。一方、交渉開始には反対との立場でレ
ターを出したのは、家族経営主体のファーマーズ・ユニオン(NFU)をはじめ、
牛肉、レンダリング、七面鳥および砂糖の関係4団体である。なお、このレターに
は名前を連ねていないが、酪農団体の全国生乳生産者連名(NMPF)も11月21日
に同USTR代表あてに送った独自のレターの中で、これまでどおりの反対の立場
を明らかにしている。

 そもそも、豪州とのFTA構想が米国内でも持ち上がり始めた昨年8月の段階で
は、AFBFを含む米国の主要農業関係34団体がこぞって「豪州における衛生植物
検疫(SPS)上の貿易障壁(米国産の鶏肉、豚肉、粗粒穀物、果実などに対する
輸入制限措置)が解消されない限り、FTA交渉には反対する」と表明するなど、
農業団体は1枚岩で抵抗していた(本紙通巻第499号参照)。しかし、今回AFBF
ほか9団体が交渉開始の支持に傾いたのは、懸案となっている両国間のSPS案件
の進展状況(豪州政府による協力的な取組姿勢)についての情報がUSTRによっ
てもたらされたためであるとされる。

 反対派のNFUや全国肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)などによる今回のレタ
ーは、こうしたSPS案件ではなく、米国市場を豪州産に開放することが最大のネ
ックであるということを正直に訴えるものであり、「豪州とのFTAには何の恩恵
も見出せない」としている。その上で反対派は、むしろ、米国産にとっての市場ア
クセスの拡大につながる目下の世界貿易機関(WTO)農業交渉の方に重点を置く
べきであり、仮にWTO交渉よりも先に豪州とのFTAがまとまろうものなら、断
固としてこれを阻止する、という強硬な構えを示している。

 ただし、交渉開始支持派のAFBFらも、手放しでこのFTAが合意に至ること
を望んでいるわけではなく、レターには、SPS案件の解決に加え、FTA交渉が
WTO農業交渉と歩調を合わせて実施されるべきであるとの条件が付記されており、
自らが不利になるようなFTAには賛成しないという意味では、交渉開始反対派と
同じである。

 もちろん米国内には、農業団体だけでなく、連邦議会にもFTAに対する消極姿
勢または反対の態度を示す議員が超党派で存在する。ゼーリックUSTR代表は、
今年8月に成立した貿易促進権限(TPA)をブッシュ政権に付与するための法律
に基づき、今回の交渉開始を議会に文書で通報した。その中に示されている豪州と
の交渉目標の中には、農業団体の懸念にも応えるような形で、@豪州における不当
なSPS措置の撤廃といった事項に加えて、Aセンシティブな輸入産品については
妥当な調整期間を設けることを条件に、可能な限り広範な産品について関税の相互
撤廃を目指すこと、B豪州政府による小麦、大麦、砂糖および米についての独占的
な輸出調整(特に、国家貿易企業の排他的輸出権限)を廃止させることなどが掲げ
られている。

 前頁のシドニー事務所からの報告にもあるように、交渉開始の合意にこぎつけた
米・豪両国は、いわばまだ同床異夢の状態にあるに過ぎない。上記のような米国内
の反応だけを見ても、いかなる貿易大国であれ、FTAにはその相手国に応じた利
害得失があり、これを調整することが国内的にいかに困難であるかを示しており、
今後の両国間の交渉も、同じく困難を極めることになろう。

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