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【シンガポール 宮本 敏行 10月3日発】 フィリピンで養豚業の振興を急ぐ 動きが強まっている。養豚農家の登録制度が整備されるなど、遅れていた養豚行 政へのテコ入れが図られつつあり、回復基調に乗り始めた同国経済を支える一翼 としての養豚業の役割に一段と期待が高まっている。 宗教の制約を受けない同国では以前から養豚業が盛んであり、2000年の豚飼養 頭数は1,076万頭と、アセアン諸国の中ではベトナム(1,950万頭)に次いで多い。 98年から 2000年の3年間で、飼養頭数は、タイが23.5%減の776万頭、インドネ シアが34.9%減の536万頭、マレーシアが55.7%減の139万頭(99年)となってお り、97年後半から東南アジアを襲った経済危機の影響で他のアセアン主要国が軒 並み大幅に減少する中、フィリピンは10.3%増と順調に産業の規模を拡大してき た。2000年の1人当たりの豚肉消費量も16.1キログラムと、2位のマレーシア( 6.9キログラム:99年)、3位のタイ(5.0キログラム)を大きく引き離している。 なお、アセアン諸国では、豚肉の消費動向は宗教の影響を強く受けており、イス ラム教徒の割合が低いフィリピン(人口の約5%)とインドネシア(同約9割)で は、1人当たりの豚肉消費量に25倍以上の開きが見られる。 フィリピンの経済は、98年を底としてV字型回復を実現した後、近年は伸長局 面を迎えている。政府によると、2001年に3.4%であったGDP成長率は、2002 年は3.5〜4.0%、2003年は 5.0〜5.5%へ堅調に上昇すると試算されており、こ れに伴って食肉の消費も増加傾向を示すと予想されている。農業統計局がこのほ ど公表した消費動向予測によると、「消費者の牛海綿状脳症(BSE)に対する 懸念から、牛肉の消費が伸び悩み肉牛産業の停滞が見込まれる一方、引き続き増 加する豚肉消費を背景として、養豚業は2002〜2003年にかけて力強い成長が続く 」としている。 そうした状況の中で、モンテメーヤー農務長官は、養豚業の一層の強化を目的 として、養豚農家の登録制度を定めた省令14号を公布した。これは、バックヤー ド・ファームと呼ばれる庭先で養豚を行う小規模農家を確実に養豚行政の中に取 り込み、これらの農家に対する肉豚生産の効率化および優良な豚の遺伝資源の普 及を目的としたものである。この省令は、肉豚や繁殖豚、凍結精液を売却する者 に対して、農務省畜産局の登録を受けるよう義務付けている。登録を希望する農 家は、飼養している豚の血統や1日当たりの増体重を記載した書類および口蹄疫 や豚コレラに感染していないことを示す証明書を備えるほか、1件の審査申請料 として500ペソ(約1,250円:1ペソ=2.5円)が必要とされている。 農務省がこうした措置を決定した背景として、同省が小規模農家で飼養される 豚の肉質向上を急務としていることが挙げられる。同省は、養豚業が抱える問題 点を、生産の効率面においても、また、海外市場との競争の面においても肉質改 良が遅れていることと認識している。しかし、インテグレーターによる大規模養 豚における優良品種の導入はほぼ完了しているものの、豚総飼養頭数の65%を占 める小規模農家に対する優良品種の啓発および普及は極めて遅れており、こうし た多数派の小規模農家をいかに統括していくかが大きな課題の1つとなっている。 口蹄疫の清浄化が進む同国では、豚肉の輸出市場で勝ち抜くためにも今回の措 置は避けて通れないものである。しかし、一般の小規模農家は基本的には血統や 増体重などの管理を行っていないことから、農家の反発も予想され、運用の先行 きは不透明である。
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