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ブラジル産鶏肉をめぐるアルゼンチンとEUの状況


【ブエノスアイレス駐在員 犬塚 明伸 10月9日発】9月26日にブラジリアで
開催された、ブラジルのカルドーゾ大統領とアルゼンチンのデュアルデ大
統領の首脳会談において、2国間の輸出融資、自動車、繊維および鶏肉輸
出等をめぐる紛争解決に向けた合意書が署名された。ちなみに、今回の両
国大統領による合意書の内容は、2002年7月上旬にブエノスアイレスで開
催されたメルコスル(南米南部共同市場)首脳会談において、両国大統領
が取り交わした約束を具体化したものである。

 ブラジル産鶏肉のアルゼンチンへの輸出をめぐって、@アルゼンチンは、
ブラジル産丸鶏のアルゼンチン向け輸出価格をダンピングと認定し、2000
年7月に決議 574/2000号に基づきアンチダンピング措置を実施(具体的
には、ブラジルのサジア社の丸鶏にトン当たり 920ドル、その他のダンピ
ング行為が認められた輸出業者にはトン当たり 980ドルとする最低輸出価
格(FOB)を設定)、Aこれに対しブラジルは、2001年1月にアルゼン
チンのアンチダンピング措置をメルコスルに訴えていたが、同年5月にブ
ラジル側の要請を退ける裁定が下され、Bその後ブラジルは、WTOの場
における2国間協議を要請したが、アルゼンチンが応じなかったため、W
TOにパネル設置を要請し4月に認められた経緯がある(詳細は、海外駐
在員情報第532号を参照)。

  今回9月の合意によれば、合意書署名日から30日以内に、アルゼンチン
は決議 574/2000等を無効にし、ブラジルはWTOへパネルでの審理取り
下げを申請するとともに、両国は90日以内にWTOに紛争が終結したこと
に係る報告書について協議することになっている。今回の合意書の内容が
実施されれば、両国間の鶏肉をめぐる紛争に終止符が打たれ、ブラジルに
とって鶏肉輸出の増加が期待されることになる。しかし、アルゼンチンは、
経済危機に陥っているため、アンチダンピング措置を撤廃しても、ブラジ
ル産鶏肉を以前ほど購買する余力はないとの見方をする者も少なくない。

  一方、EU委員会は7月上旬に規則第1223/2002を公布し、鶏の骨抜き
冷凍部分肉(関税番号 0207.14.10、関税102.4ユーロ(約12,493円:1ユ
ーロ=122円))の塩分含有率を 1.2%〜 1.9%にし、公布日の20日後から
ら適用している。ブラジル鶏肉輸出業者協会(ABEF)の推計によれば、
同国のEU向け部分肉の約85%は塩分を調整し、関税率15.4%(関税番号
0210.99.39)が適用されているが、この措置により関税番号0207.14.10が
適用されることとなり、骨抜き生鮮部分肉と同じ100キログラム当たり102
.4ユーロの関税が賦課されることになる。

  ブラジルのEU向け部分肉輸出は、2000年の12万2,696トンから2001年
には 22万3,613トンと82.3%増加しており、ABEFは、「今回のEU委
員会による措置は、域内の鶏肉生産者の強い輸入規制要求を反映したもの
である。従来の関税率 15.4%で輸出するには塩分含有率を1.9%以上にす
る必要があるが、1.9% 以上ではナゲットやハンバーグ等に仕向けること
ができない。しかしながら、EUの輸入業者はすでに従来の規制で輸入許
可を取っているものが10月分まであるため、ブラジルの輸出業者が影響を
感じるのは10月以降であろう。」としている。

  2001年のブラジル産鶏肉は、好調な輸出により生産量が対前年比で9.8
%増加したが、本年は生産調整を実施して価格下落防止を試みている。ア
ルゼンチンおよびEUにおける10月以降の輸入動向が、今後のブラジル産
鶏肉にどのような影響を与えるのか注目されるところである。
    

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