ALIC/WEEKLY


経済要因が生乳生産動向に大きく影響(アルゼンチン)

 


【ブエノスアイレス 玉井 明雄 9月11日発】アルゼンチン農牧水産食糧庁(SA
GPyA)によると同国の生乳生産量は、施設の近代化や加工処理能力の拡大
などを背景に、92年以降一貫して増加し、99年は1,033万キロリットルに達し
た。 しかし、乳価低迷など伴う収益性の悪化を嫌い酪農家の廃業が相次いだ
ことなどから、2000年に前年比5.0%と減少に転じて以来、2001年も同3.8%
減となったが、2002年は、これまでの減少傾向がさらに拡大すると見込まれ
ている。
 SAGPyA がまとめた生乳生産動向によると2002年1〜6月における主要
乳業メーカーの生乳取扱数量(全国の生乳生産量の約60〜65%に相当。)は、
離農の増加、1戸当たりの乳量の低下などにより、前年同期比 13.2%減の229
万キロリットルとなった。

  SAGPyAでは、同期における生産動向に大きな影響を与えた経済要因と
して、2002年1月に実施された自国通貨ペソの切り下げを挙げている。同国の
酪農経営は、輸入資材や補助飼料への依存度が高いことから、通貨切り下げに
より生産コストが大幅に上昇する一方で、その上昇分をカバーするだけの乳価
引き上げが行われず、結果的に、収益性の悪化による離農の増加や生産性の低
下につながった。その他の減少要因として、水害や厳冬により酪農生産地域に
おいて牧草の生育状態が悪化したことなどが挙げられている。乳価の引き上げ
が抑えられた要因としては、多額のドル建て債務を抱える乳業メーカーの経営
状況が厳しいことや、経済情勢の悪化により消費者の購買力が落ち込んでおり、
生乳の生産コスト増加分を消費者価格へ転化することができないことなどがあ
る。

  一方、酪農部門とは対照的に、大豆やトウモロコシなどの耕種部門は好調で
ある。国際的な穀物相場が上昇したことに加え、通貨切り下げ後、生産物のペ
ソ建て価格が上昇していることがその背景にある。 SAGPyA がまとめた
主要6品目 (大豆、小麦、トウモロコシ、牛肉、生乳、ヒマワリ)の農業粗生
産額(推定値)を見ると、01/02年度における大豆、トウモロコシの粗生産額
は、それぞれ前年度比 92.6%増、76.1%増となった。中でも、大豆は、6品
目全体に占める割合が 97/98年度に28.5%だったが、01/02年度には46.1%に
達している。一方、97/98年度に大豆、牛肉に次いで多かった生乳は、01/02
年度には前年度比21.5%減の23億6,300万ペソ( 約779億7,900万円:1ペソ
=約33円)となり、順位は5番手となった。
 主要6品目の農業粗生産額                         (単位:百万ペソ、%)
00/01年度 01/02年度 対前年度比
大豆 7,888 15,194 92.4
小麦 3,919 6,560 67.4
トウモロコシ 2,209 3,891 76.1
牛肉 3,767 2,875 -23.7
生乳 3,011 2,363 -21.5
ヒマワリ 885 2,102 137.5
21,680 32,984 52.1
 資料:アルゼンチン農牧水産食糧庁(SAGPyA)	
   注:7〜6月の生産数量に6月の生産物価格を乗じて算出	


  こうした状況を反映し、SAGPyAでは、酪農部門において、大豆を中心
に耕種への転換が進むとみている。現段階ではどの程度転換が図られるか予測
することはできないとしながらも、酪農経営体が用地の一部を耕種へ転用した
り、あるいは、酪農業から完全に手を引き耕種への転換を図るケースが少なく
ないとしている。
 
  また、2002年通年の生乳生産量は、今後の天候条件にもよるが、前年を10〜
20%下回ると予測されている。こうした予測の要因としては、@経営基盤が脆
弱な小規模の酪農経営体の閉鎖が増加すること、A大中規模の酪農経営体にお
いて、乳牛の売却、用地の全部または一部の耕種への転換が進むこと、Bコス
ト高となる補助飼料の給与量が減少し、乳牛の栄養状態が適正水準以下となり、
生産性が低下すること、C経済混乱による農業融資の減少により生産資材の確
保に支障を来し、牧草などの栽培がより困難となることなどが挙げられている。
 

元のページに戻る