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【シンガポール 小林 誠 9月12日発】 タイ政府は、先週、ベルギーのブラッ セルにあるEU本部へ職員を派遣し、今年3月以降懸案となっていた鶏肉および エビの抗菌剤残留問題と2001年からタイへの適用が除外された一般特恵関税制度 (GSP:Generalized System of Preference)の再適用に関する実務者レベルで の協議を行った。今回の協議の席上、EUの担当者からは、たび重なるEU側の 警告にもかかわらず、残留に関して、タイの輸出品に改善が見られないとの不満 が表明された。 このような協議の結果を受け、タイのソムキット副首相は9月9日、農場段階 から輸出港における積み出しに至るまでのすべての段階で、鶏肉とエビを徹底的 に検査・モニタリングする方針を発表した。同副首相は、今回の政府決定は、同 国産鶏肉とエビに対する輸入国の信頼回復のために必要不可欠であり、今後、こ れまでに残留薬剤が検出されてきた輸出業者を個別に処罰する方針であることも 表明した。 EUは、タイ産鶏肉にとって日本に次ぐ重要な市場であり、また、衛生条件の 厳しいEUへ、アセアン諸国で唯一輸出可能なことが、同国産鶏肉のセールスポ イントの1つとなっている。 しかし、今年3月末以降、同国産鶏肉に抗菌剤ニトロフランの残留が数次にわ たり検出されたことから、EUは、同国産鶏肉を一時輸入禁止とし、禁止措置が 解除された現在でもタイ政府の検査証明書の添付を義務付けているほか、到着後 従来のサンプル抽出検査ではなく、輸入品全ロットに対する検査を実施している。 政府関係者は、薬物残留問題対策として、バンコク近郊パツンタニ県に新たに 設立された農業協同組合省畜産開発局中央検査所に、最近、EUが検査に使用し ているのと同じ機種の分析器が設置されたことから、今後2週間以内にはすべて の輸出向け鶏肉およびエビの残留薬剤検査を完璧に行える見込みであるとしてい る。 EUの輸入禁止措置とそれに引き続く検査強化の影響を受け、今年上半期のタ イ産鶏肉のEU向け輸出量は、エビの前年同期比70%減よりは小幅ながら、同16 %減の大幅な減少となっている。このようなことから、タイの鶏肉輸出関係者は、 タイ側の検査体制を農場段階までさかのぼって行うという今回の政府決定が実施 されれば、さらに輸出価格が上昇するとともに、輸出需要に対する迅速な対応が 取りにくくなるとしている。このため、今年のEU向け輸出目標数量である16万 5千トンの達成は困難であり、さらに前年実績の約15万トンをも下回り、輸出量 全体でも前年実績の約43万7千トンを5〜10%程度下回ることが見込まれている。 一方、GSPについては、タイへの適用が廃止されてからもマレーシア、イン ドネシアなどへの適用がなされており、これによりタイ産鶏肉およびエビのEU 向け輸出が不利になっているというのがタイ側の主張であるが、今回の協議では この点に関しての進展はなかった。鶏肉に関しては、マレーシアにEUの承認処 理場があるものの、飼料の品質の問題から同国産の鶏を処理し、EUへ輸出する ことは認められていないため、アセアン加盟国内にはこの品目に関してタイと競 合する相手はなく、GSPの再適用がなくとも、アセアン域内でのタイの優位性 は揺るがないものとみられる。
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