ALIC/WEEKLY


ブラジルの農地紛争をめぐる動き



土地なし農民による農地占拠が各地で発生

 ブラジルの現地報道によると、1月中旬以降、土地なし農業労働者運動(MST)
傘下の農民を中心とした農地占拠の動きが全国各地で活発になっている。

  MSTは、1985年に全国規模で組織化された国内最大の農地開放運動組織であり
、約 150万人の農民がその傘下にあるとされる。MSTの全国コーディネーターで
あるロドリゲス氏によると、今年1月1日に就任した労働党のルラ大統領は、昨年
の大統領選挙期間中、農地改革を新政府の優先課題とすると公言していたことから、
MSTは農地占拠を差し控えていた。しかし、政権就任後、農地政策の立案および
実施機関である植民・農地改革院(INCRA)では、幹部クラスの人事の遅れな
どから、遊休農地の収用、入植地の造成、入植者の選定などの業務が大幅に停滞し
ている。こうしたことから、MSTは政府に対し、農地改革を税制および社会保障
制度改革と同等に取り扱うことを求めるために行動を起こしたとしている。
 


不法占拠防止暫定令に関し意見の相違
  
  一方、ルラ政権は、カルドゾ前政権が発令した不法占拠防止暫定令第2027/2000
号を少なくとも現時点では、廃案としない意向を明らかにしている。同暫定令は、
MSTの活動が過激化した2000年に発令されたもので、不法占拠された土地は、占
拠者が立ち退いた後も、2年間はINCRAによる実地検分・接収は行わない。ま
た、不法占拠に何らかの形で関わった団体に対しては、いかなる政府資金の給付も
行われないとしたものである。また、同暫定令の改正令 第2183/2001号では、直
接的または間接的に不法占拠に関与した者は農地改革プログラムの対象から除外さ
れるとしている。
 
  3月19日付けの政府系機関紙アゼンシア・ブラジルによると、政府とMSTとの
意見の相違は不法占拠防止暫定令にあるとした上で、ロセット農地開発相は「政府
は、同暫定令の改正案を国会に提出するのか?と質問されれば、答えはノーである
」と述べている。これに対しMST側は「占拠した土地の接収を禁止する暫定令が
あるのなら、社会的機能を果たさないすべての土地を接収の対象とする暫定令があ
るべきである」と反論している。


  
農地問題は各政権の重要課題

  農地改革が叫ばれる背景には言うまでもなく、大土地所有制がある。95/96年農
業センサスによると、全国の農用地面積(3億5,361万ヘクタール)のうち、経営体
数で全体の約 5割を占める10ヘクタール規模未満の経営体の所有総面積は、全体の
わずか2.2%にしか過ぎないのに対し、経営体数で全体の1%に過ぎない1千ヘクタ
ール規模以上の経営体の面積は、45.1%を占めるという寡占状態にある。なお、全
国の放牧地面積(1億7,770万ヘクタール)のうち、1千ヘクタール規模以上の経営
体の面積は、44.5%を占めている。

  ブラジルで、組織的な農地改革運動が始まったのは、1930年〜1945年のバルガス
政権時代に、同大統領が労働者の組織化を奨励する政策をとってからとされるが、
その後、農地問題は、各政権の重要課題の1つとなっている。カルドゾ前政権にお
いては、1995年の政権発足から2001年までに約2千万ヘクタールの土地を接収し、
約58万5千家族を入植させた。これは、1994年までの30年間の入植家族数と比較し
て飛躍的な数であるが、その一方で、農地の配分を受けた入植者の中には、インフ
ラ整備のための負債を返済できず、土地を放棄したり、売り渡したりする者も多く
、多額の資金を投じて農地改革を進めても、成果の上がらないケースが多いという
指摘もある。
 
  MSTによる農地占拠の動きが活発化する中、選挙中に農地改革を優先課題とし
て掲げた新政権が、それをどのように進めていくのか今後の動向が注目される。
  
【ブエノスアイレス駐在員 玉井 明雄 3月26日発】 


元のページに戻る