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ブエノスアイレス駐在員事務所【 犬塚 明伸、玉井 明雄 】 1.ブラジルで新政権が発足、農業が国の礎に 2003年1月1日、ブラジルにおいて労働者党出身のルラ大統領を首班とする新政 権が発足した。就任式においてルラ大統領は、同政権の優先課題を「飢餓ゼロ」と 称する食料安全保障プログラムとすることを発表した。農相にはロドリゲス前ブラ ジルアグリビジネス協会会長が就任した。同氏は、ルラ政権の飢餓対策を支えるの は農業生産であると強調した上で、農務省の政策目標として、食料供給の確保、農 産物輸出の拡大による貿易収支の改善、組合制度の拡充を掲げた。また、開発商工 相は大手食品企業サジア社のフルラン前経営審議会会長が抜てきされ、これら新大 臣の就任に農業界から大きな期待が寄せられた。 2.第1回南米南部農牧審議会開催 5月30日および31日にメルコスル(南米南部共同市場)に加盟または準加盟して いる6カ国の農業担当大臣が集まり、第1回南米南部農牧審議会(CAS)が開催 され委員長には審議会の設立を提唱したウルグアイのゴンサレス大臣が就任した。 CASの設立目的は、メルコスル等6カ国の地域内貿易を簡易化し、農業および 食料輸出における国際的な立場を強化することで、目的達成のため @病害虫の管 理・予防・撲滅のため、各国の動植物衛生状況を把握し、地域内の衛生基準の同一 化を図るための調整を実施 ABSEの清浄地域ステータスの維持および口蹄疫の 撲滅期間短縮を目的とした家畜衛生に関する戦略的優先事項の設定 B国際獣疫事 務局(OIE)やCODEXなどの国際基準を協議する際に、メルコスル等6カ国 の認識をなるべく共通なものに調整 Cメルコスルに既に設置されていた植物衛生 などの委員会に加え、新たに常設獣医委員会(CVP)を設置し各国の連携強化を 図る−などを行うこととした。 3.輸出向け牛飼養農場は個体登録が必須 アルゼンチン農畜産品衛生事業団(SENASA)は、輸出向け肉牛を個体ごと に管理するための決議第15/2003号(2003年2月5日付け)を2月12日の官報で公 布した。同決議では、SENASA決議第496/2001号および決議 2/2003号により 規定されている「輸出向け牛飼育農場登録制度」に登録しているすべての農場に対 して、「『輸出向けと畜用牛の個体識別システム』 が強制的に適用される」と規 定された。 なお、本決議は公布90日後の5月13日から施行される予定であったが、すべての 農場において準備が整わなかったため7月1日に変更された。 4.ブラジル政府、2003年に収穫されるGM大豆の販売を承認し、その後GM Oに係る新たな表示規則を制定 ブラジルでは遺伝子組み換え(GM)大豆の商業的栽培を解禁する司法判決はま だ下されていないが、政府は南部のリオグランデドスル州を中心にGM大豆が栽培 されている実態を踏まえ、3月26日GM大豆の販売に関する暫定令第113号(後に 法律化された)を制定した。これにより2003年に収穫されるGM大豆の国内外向け の販売は、2004年1月31日を期限として認められた。ただし、GM大豆の種子とし ての利用・販売、2003/04年度以降のGM大豆の作付けは全面的に禁止された。 また、GM大豆(同大豆製品を含む)は適切なラベル表示がなされ、GM大豆が 混入していることを消費者に伝えなければならないことも同暫定令であわせて規定 された。ブラジルには遺伝子組み換え体(GMO)の混入が4%以上である食品に 対しラベル表示を義務付けた2001年7月18日付け大統領令第3871号があった。しか し、ルラ大統領は2003年4月24日に、GMOの混入が1%以上である食品、飼料、 およびそれらの原料に対してラベル表示を義務付けた新たな大統領令第4680号に署 名し、先の大統領令第3871号を廃止した。 5.ブラジル政府、2003/04年度のGM大豆の作付け・販売を条件付きで承認 ブラジル政府は9月25日、2003/04年度のGM大豆の作付け・販売を条件付き( 作付けに係る誓約書への署名など)で認める暫定令第131号を制定した。これによる と、2003年12月31日を期限として、2003年に収穫され生産者が独自に利用するため に保管していたGM大豆の種子を、環境アセスメントの実施なしに作付けに利用す ることが認められ、また2004年12月31日を期限として当該種子より生産されるGM 大豆を販売することも認められた。 なお、暫定令第131号は法律化のため連邦議会で審議され、下院で @販売期限を 1カ月延長して2005年1月31日までとし、A2003/04年度に収穫したGM大豆を次 期作付け用種子として品種登録することはできるが販売は禁止、B農務省等は種子 の生産と在庫を厳しく管理すること等の修正がなされた後、11月20日修正されるこ となく上院を通過した。12月10日時点、大統領の署名を待っているところである。 6.ブラジル南部パラナ州がGM作物の栽培、販売などを禁止 マットグロッソ州に次ぐ国内第2位の大豆生産州である南部地域のパラナ州で10 月14日、同州におけるGM作物の取り扱いに関する条例案が州議会で可決され、レ キオン州知事が10月27日署名した。同条例は、パラナ州において食料・家畜用飼料 に向けられるGM作物の栽培、輸入、加工および販売などを禁止するとともに、同 州が所有・管理する国内最大の大豆輸出港であるパラナグア港をGM作物の輸出入 のために使用することを禁じた。なお11月25日、港湾当局が差し止めていたGM大 豆を含む約7万トンがラベル表示されて輸出されたが、このことについてパラナ州 政府は「官報に掲載され条例が有効となる前に実施されたことだったので輸出を許 可したが、これが最後のGM大豆輸出である」とコメントした。 なお、12月10日連邦最高裁判所は、同条例に対し出されていた違憲訴訟を認める 予備判決を下し条例を差し止めた。 7.南米で口蹄疫の清浄化が進む 5月18日から23日にパリで開催された第71回OIE総会において、ブラジル北部 のロンドニア州やコロンビアの一部の地域が、新たに口蹄疫ワクチン接種清浄地域 として認定された。また、OIE動物疾病科学委員会(旧称:口蹄疫その他疾病委 員会)は5月22日、ウルグアイの口蹄疫ワクチン接種清浄国への復帰を決定した。 なおOIEはアルゼンチンの衛生ステータスについて、5月22日から7月7日ま での間に疫学上の変化がなかったことを示す文書を提出することを条件にワクチン 接種清浄地域のステータスを回復できるとしていた。アルゼンチンでは同日まで口 蹄疫の発生がなかったことにより、南緯42度以北が口蹄疫ワクチン接種清浄地域に 復帰した(その後の状況は次項8を参照。ちなみに42度以南は2002年5月のOIE 総会でワクチン不接種清浄地域として認定されている)。 8.アルゼンチンの隣国および北部で口蹄疫発生 OIEは7月10日、ボリビア南部のチュキサカ県で牛4頭に口蹄疫ウイルス(血 清型O)が確認されたとの通報を受けた。また、パラグアイの衛生当局は7月12日、 同国西部ボケロン県ぺドロペーニャ地区ポソオンドの先住民移住地において8日に 疑似患畜が発見され、サンプルを検査した結果、口蹄疫ウイルス(血清型Aおよび O)が検出されたと発表した。これら隣国における口蹄疫発生に伴いSENASA は、国境付近の防疫対策を強化していた。 このような中SENASAはOIEに9月5日、同国北部のサルタ州内、ボリビ アとの国境40キロメートルに位置する農場で飼養されていた豚に口蹄疫の発生が確 認されたことを報告した。発症頭数は18頭、SENASA中央研究所の診断の結果 ウイルスは血清型Oであった。これにより南緯42度以北のステータスは留保される こととなった。 9.南米南部諸国、ボリビアの口蹄疫対策を強化 10月6〜8日に南米南部農牧審議会(CAS)とその下部組織である常設獣医委 員会(CVP)が開催された。CVPのテーマはボリビアにおける口蹄疫対策を強 化することで、@正確な飼養頭数の把握 Aワクチンの公的管理および予防接種地 域計画の策定 B牛の移動管理の実施−などで、これらをCASに提案した。CA Sはこれらを承認するとともに、予防接種の実施に当たり周辺国から人員を応援に 派遣すること、1回目のワクチン接種を12月15日までに完了すること等を併せて決 定した。 10.アルゼンチンの生乳生産、4年連続の減少見込み アルゼンチン農牧水産食糧庁(SAGPyA)によると、同国の 2002年の生乳 生産量は前年比10.0%減の852万9千キロリットルとなり、 90年代半ばの水準ま で落ち込んだ。また2003年は、同国の主要酪農地帯であるサンタフェ州を中心に、 2〜4月の降雨量が前年同期の2倍以上だったことで河川がはんらんし、農牧地、 家屋、道路等が浸水する大洪水に被られた影響などから4年連続の減産が見込まれ ている(2003年の予測は、対前年8.5%減の780万キロリットル)。こうした中、 SAGPyAは酪農・乳業部門の回復に向けた課題として、@公衆衛生の向上など を図るため国と州の関係機関の調整により、食品の衛生および流通に関する管理体 制を強化 A牛乳・乳製品の取引数量を偽るなどの脱税行為を抑制するため税制を 見直し、また牛乳・乳製品の取引を可能な限り透明化 B各生産地域における酪農・ 乳業の振興を図るため道路インフラを整備−などを提言した。
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